2020 Fiscal Year Annual Research Report
グローバル・ガバナンスにおける「ゆらぎ」と秩序形成ー自己組織性の論理を探る
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18H00824
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山田 高敬 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (00247602)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 哲也 南山大学, 総合政策学部, 教授 (00367640)
塚田 鉄也 桃山学院大学, 法学部, 准教授 (00551483)
赤星 聖 関西学院大学, 法学部, 准教授 (20795380)
西谷 真規子 神戸大学, 国際協力研究科, 准教授 (30302657)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | グローバル・ガバナンス / 国際制度 / 自己組織的システム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の代表者及び分担者は、各々が担当する争点領域における「ゆらぎ」の発生過程とその効果について文献レビューおよびフィールド調査を実施した。後者に関しては、コロナ禍のため限定的にならざるを得なかった。赤星は、「ゆらぎ」をもたらすアクターとしてUNHCR「内部」の地域局・地域/国事務所と、UNHCR外部との「接点」となるクラスターの2つを特定化し、組織内の論争について聞き取り調査を実施した。塚田は、2003年の欧州連合の家族呼び寄せ指令に至る交渉過程について欧州委員会と欧州議会や各加盟国政府との相互作用という視点から分析し、「ゆらぎ」による欧州委員会指令案の変容プロセスについて明らかにした。西谷は、2018年に発足した司法の廉潔性グローバル・ネットワーク(GJIN)の各種会合記録や独立評価部による評価報告書等の文書資料を読み込み、同ネットワークの自省的なメカニズムが「ゆらぎ」を発生させ、環境の変化や規範の履行状況を反映する形で新たなシステムや規範が創出されたことを明らかにした。そして代表者の山田(高)は、全体の分析枠組みを国際政治学研究により適したものに修正するとともに、事例研究として国連ビジネス人権指導原則(UNGP-BHR)の実施状況に関するCHRB(企業人権ベンチマーク)による評価を解析し、「ゆらぎ」の効果を明らかにした。中間的な研究成果は、各々が論文等で発表するとともに、全体としてはイギリス、ベルギーおよび米国から複雑系ガバナンスの研究者も参加する形で国際シンポジウムを開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者は英国において、WBA(World Benchmarking Alliance)、DIT (Department of International Trade)などの非政府や政府機関においてグリーン・ファイナンスの専門家にインタビュー調査を実施し、人権や気候ガバナンスにおける金融業界の役割についての知見を得た。その後、国際シンポジウム「Global Governance in Complex Systems: Cases of Yuragi-led Transformations」を開催し、研究代表者の山田(高)はこのインタビュー調査で得られた知見に基づき「ゆらぎ」を増幅する共律構造について、研究分担者の赤星は「トランスオーガニゼーショナル・パートナーシップの可能性 : グローバル難民ガバナンスの変革」について、そして同じく分担者の西谷は「複雑なグローバル・ガバナンスにおける自省作用 : 司法の廉潔性をめぐる非公式ネットワークを事例に」についてそれぞれ報告し、各自の研究成果を共有した。また、本シンポジウムにはA. Orsini氏(Universite; Saint-Louis - Bruxelles)、亀山康子氏(東京大学)、T. Pegram氏( University College London)、杉山知子氏(愛知学院大学)を招き、建設的な意見交換を行うことでグローバル・ガバナンスにおける「ゆらぎ」について議論と知見を深めることができた。そのため、本研究課題の代表者および分担者は各々が担当するガバナンス領域おいてほぼ予定通りに研究が遂行されていると言ってよいであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスの感染拡大により海外出張を伴う現地調査を十分実施できなかった分担者もいたため、21年度においてまずは追加的な現地調査の実施を優先したい。その上で各自が実証研究の完成度を高めていき、その研究結果の比較検討を通して「ゆらぎ」とシステム変容の関係について一般的な命題を導出したい。特に「ゆらぎ」の創出及び増幅はどのような性質を持つアクターによって行われるのか、どのような条件の下であれば、システム変容は起きるのか、「内破」によるシステム変容を促進するガバナンス構造とはいったいどのような構造なのか、などの問いに答えるべく研究を進めていきたい。 本研究課題の主要な事例に即して言うと、たとえば難民保護ガバナンスは、どの程度そのスコープを国内避難民の支援に拡張できたのか。そのようなシステム変容は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のどのような部署の働きかけによって可能となったのか。その部署は、どのような性質を持っているのか。またEUの家族呼び寄せ指令はどのように変化してきたのか。EU司法裁判所はその過程においてどのような機能を果たしたのか。また司法の廉潔性に関するグローバル・ガバナンスはどのように変化してきたのか。そしてその変化はどのようなアクターによって、またどのようにしてもたらされたのか。さらに国際河川制度におけるガバナンスは、どのような目的で、またどのようなアクターによって制度化されてきたのか。そしてその過程で河川を利用する海運業などのビジネスはどのような役割を果たしたのか。最後に気候変動問題の解決に向けて自主的に脱炭素化に取り組む民間企業によって引き起こされた「ゆらぎ」はどのようなメカニズムによって増幅されているのか。各事例において、こういった問いに答えられるように実証分析を進めていき、適宜関連する学会等で研究成果を発表する予定である。
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Research Products
(9 results)