2018 Fiscal Year Annual Research Report
Reconceptualizing "Positionality" in Empirical Studies in Japan: A Critical Analysis of Power, Interactions, and Mutual Intelligibility
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18H00930
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
池田 緑 大妻女子大学, 社会情報学部, 准教授 (40337887)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
江原 由美子 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 教授 (20128565)
小川 真理子 九州大学, 男女共同参画推進室, 准教授 (50724746)
定松 文 恵泉女学園大学, 人間社会学部, 教授 (40282892)
高野 麻子 明治薬科大学, 薬学部, 講師 (90758434)
高橋 哲哉 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (60171500)
曹 慶鎬 立教大学, 社会学部, 教育研究コーディネーター (20762892)
桃原 一彦 沖縄国際大学, 総合文化学部, 准教授 (40369202)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ポジショナリティ / 経験的概念 / 社会的係争 / 被投的関係 / 共通了解性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、様々な社会的権力関係を実証的に分析することを通じて、ポジショナリティに纏わる①齟齬・係争、②当事者性、の2点を中心に研究を行なった。 日本と沖縄の関係については、基地問題をめぐる運動論的争点の一つである「県外移設論」「基地引き取り論」への批判的言説を分析することによって、「沖縄人」「日本人」というポジショナリティおよびその権力関係を浮き彫りにできた。また梶田孝道らの「受益圏/受苦圏」概念が、ポジショナリティの整理において一定程度有効であることも確認された。同時に「沖縄人」のポジショナリティは現在の権力性と歴史性の双方によって規定され、東アジア周辺地域との歴史的関連性、琉球列島諸島の差異の考察が、必須であることを再確認した。さらにこれらの沖縄に関わる分析と、在日外国人や昨今のヘイトスピーチをめぐる議論に表出するポジショナリティの構造を比較し、共通性を発見することができた。またDV被害女性を支援するNGO支援者の分析過程で、公的機関の一部にはDV被害当事者及びNGOのポジショナリティを軽視する傾向があり、支援の際に齟齬や対立があることや、外国人市民の権利獲得支援運動等において性差に基づくポジショナリティの軽視が、齟齬や当事者性の混乱を惹起している状況も確認できた。 これらの分析から、社会運動等の現場で、多様なアイデンティティ(国籍・性・エスニシティ等)を有する参加者が協働し合っている事実を、ポジショナリティの無効化と混同する傾向が強いことが確認された。総じて、ポジショナリティをめぐっては、コミュニケーション水準における齟齬と、集団責任についての認識水準における齟齬の、二つの水準の齟齬があることが明らかになった。また当事者性という概念も、ポジショナリティとの関連による複層性に留意する必要が確認できた。 またポジショナリティの量的調査法についても基礎的検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である2018年度の目標のうち、ポジショナリティに纏わる「齟齬・係争」、「当事者性」の諸相を多様な社会的権力関係の実証的分析から経験的概念として明らかにする作業については、十分な分析を行うことができた。それらの知見の統合から、ポジショナリティの齟齬・係争の水準の整理・切り分け、当事者性の複層性などを明らかにすることができた。のみならず、2年目の目標として設定していた「権力作用」についても、上記分析の過程で先取りして踏み込んで分析を進めることができた。このポジショナリティを経験的概念として構築する目標については、計画よりも進捗していると考える。 一方で、このポジショナリティ概念に客観性を持たせるための量的調査については、若干作業が滞っている。ポジショナリティへの意識を量的に把握する試みは初めてのものであり、先行調査も存在しないため、指標の設定に苦労した。概念の敷延状況からポジショナリティを一般的かつ直接的に測定するのは現時点では困難であると判断し、具体的な事例領域を通して人々のポジショナリティを代理指標で測定するアプローチを採用することとなった。その際にモデルとして受益圏/受苦圏に関する議論(図式)を援用し、各々の課題(事例)、課題への人々の関わり方、図式(受益圏/受苦圏)、測定項目(負担意識)を順次指標化しているところである。これらの作業に予想以上の時間がかかっており、当初目標より3ヶ月程度遅れている。 実証的分析によるポジショナリティの経験的概念の構築については目標以上の進捗であるが、量的調査準備作業には若干の遅れがあり、それらを総合的に勘案し「おおむね順調」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
実証的分析からポジショナリティを経験的概念として精査する作業については、当初の計画通りに、2019年度に③権力作用、④被投的関係、について、2020年度に⑤共通了解性、について引き続き各事例領域からの分析を行い、知見を統合する。 また、初の試みとなるポジショナリティへの意識の量的把握調査についても、2019年秋に、これまで実証分析を行ってきた領域の運動体関係者への質問紙調査ならびにネットを利用した一般へのパネル調査を実施する予定である。また2019年夏から秋にかけて、2020年度の主要課題である⑤共通了解性の予備的調査として、メンバー全員で沖縄集中調査を行い、ポジショナリティに纏わる齟齬や係争を超克するための思想や実践を調査する。2019年度は沖縄集中調査を含め5回の研究会・ミーティングを予定している。それ以外でも、研究会のMLとネット上に共有フォルダを設定し、情報共有と議論を随時遺漏なく行える体制となっている。 スケジュール上懸念されるのは、量的調査の実施が2~3ヶ月遅れていることにより、当初2019年度末に参加・報告予定であったAAS(Association for Asian Studies)のセッション締め切りの関係から2019年度の参加が微妙になる可能性である。量的調査の結果も含めて十分な準備をして参加するため、2020年度に参加する可能性と方法を大妻女子大学の事務担当部局と、日本学術振興会にも問い合わせの上、協議している。 なお、日本国内において実施予定の研究成果を還元するシンポジウムについては、当初の予定通り2020年度夏頃に実施する予定である。
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Research Products
(21 results)