2018 Fiscal Year Annual Research Report
東アジアのポストコロニアル経験を聞き取るー日韓台オーラルヒストリーの比較研究
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18H00932
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
蘭 信三 上智大学, 総合グローバル学部, 教授 (30159503)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中山 大将 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 助教 (00582834)
権 香淑 大阪経済法科大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (00626484)
佐藤 量 立命館大学, 先端総合学術研究科, 非常勤講師 (20587753)
李 洪章 神戸学院大学, 現代社会学部, 准教授 (20733760)
伊地知 紀子 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (40332829)
田中 里奈 フェリス女学院大学, 文学部, 准教授 (40532031)
高 誠晩 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (40755469) [Withdrawn]
福本 拓 宮崎産業経営大学, 法学部, 准教授 (50456810)
坂田 勝彦 東日本国際大学, 健康福祉学部, 准教授 (60582012)
山下 英愛 文教大学, 文学部, 教授 (80536235)
八尾 祥平 神奈川大学, 経営学部, 講師 (90630731)
丁 智恵 東京工芸大学, 芸術学部, 助教 (90794545)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ポストコロニアル経験 / オーラルヒストリー / 植民地経験 / 言説空間 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は本研究課題の初年度として、まず、(1)研究の基本的方向性を確認すると同時に、(2)韓国におけるオーラルヒストリーの研究動向、(3)台湾に関するオーラルヒストリー実践の研究実践を検討した。まず、(1)研究方法の基本的な視座としては、研究代表者・蘭論文(2018)と分担者の山下論文(2018)を出発点とすることを確認した。東アジアの各地において聞き取られたオーラルヒストリーの内容と傾向を明らかとするだけでなく、それぞれのトピックに関する語られた状況を抑えることが必須である。たとえば、当該トピックに関する社会全般のマスター・ナラティブ、当事者間のモデル・ストリー、語りはじめられたきっかけや背景・聞き手の登場、歴史認識問題との関連、民主化や冷戦崩壊などのマクロ状況との関連といった要因を抑えることである。 (2)李洪章氏による「韓国における口述史研究の動向」によって、韓国における口述史が民主化とともに展開し、国際的な下からの歴史を救い上げるための手法として洗練されてきた動向を明らかにした。たとえば、光州事件や済州43事件など国家によって抑圧されてきた語らいを拾いあげてきた経緯を明らかとした。 (3)所澤氏の報告から、台湾における日本語世代のオーラルヒストリーに関する研究会では、1987年の台湾民主化以降、所澤グループ(日本人研究者たち)という「聞き手の登場」によって、戦前期に日本お教育を受けた日本語世代の語りを相当数聞き取っており、戦後の台湾社会での語りと日本語世代の語りの対比が興味深いことが分かった。内容としては、1972年の沖縄の本土復帰を受け、日本語世代が「つぎは台湾の本土復帰だ」という語りには少なからず衝撃を受けた。なお、沖縄における台湾引揚者へのオーラルヒストリー実践については中村報告によって一部明らかとされたが、依然として課題が残こされたままである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は本研究課題の初年度としておおむね順調に進んだといえよう。そう判断する根拠は以下のようである。 (1)研究の基本的方向性に関しては、すでに本プロジェクトの中心である蘭と山下が書いた論文(2018)を出発点としたが、その二論文は定評があり、かつ筆者本人の報告のために当該論文を批判的に検討を加えることが出来て、分析枠組みをかなりの程度共有できたとおもわれるからである。 また、(2)に関しては、4つの海外調査によって、韓国における口述史(オーラルヒストリー)の展開、台湾や台湾と沖縄をめぐるオーラルヒストリーの展開と作品の収集、米国における東アジアに関するポストコロニアルな聞き取り作品の所在調査を行った。その結果、韓国における口述史に関しては非常に活発な聞き取り実践も方法論的な検討も行われ、相当な整備がなされていることを韓国調査から明らかとなった。これは予想以上の展開である。一方、台湾調査においては民主化後の語りと先住民の語りがあるが、その所在調査がある程度明らかとなったが、韓国におけるオーラルヒストリーの展開ほどに明らかとされていない。韓国調査の進行状況と台湾調査の進行状況とはまだばらつきがあり、台湾におけるオーラルヒストリーをめぐる状況をより重点的に明らかとすることが課題となっている。なお、台湾と沖縄をめぐる台湾引揚者へのオーラルヒストリー実践は琉球大学において蓄積されており、その担い手の中村氏の本プロジェクトへの参加によって大きな打開が期待される。なお、当初は、米国調査は予定していなかったが、米国議会図書館などでのアジア太平洋戦争や朝鮮戦争に従軍した日系兵士やコリア系兵士のオーラルヒストリー調査は、東アジアを照射するものとして重要であることが理解できた。 このような研究会と海外調査の成果から、初年度としては満足できる程度の進捗状況にあるといえよう。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)初年度の活動を継続し、東アジにおけるポストコロニアル経験に関する語りの所在調査を明らかとすること、(2)それらを各国地域にお ける言説空間に位置づけながら考察するのが初年度に達成した研究成果の次のステップであろう。そして、その過程で(3)東アジアにおけるオーラルヒストリーを研究する研究グループ間のネットワークの構築を準備していくという2019年度の課題に結びついていくだろう。 作業課題としては、(1)の課題に関連しては、①日本:植民地帝国化の語り、満洲国建国の語り、敗戦の語り、復員の語り、シベリヤ抑留の語り、留用の語り、戦犯抑留の語 り、引揚の語り(満洲・樺太・朝鮮・台湾・南洋)、残留者の語り(中国・サハリン)、同帰国者の語り、在日朝鮮人の語り、 在日華僑の語り等々。②韓国:日本帝国期の語り、解放の語り、4・3事件の語り、南北分断の語り、朝鮮動乱の語り、開発独裁の語り、民主化の語り 、日本軍「慰安婦」の語り、米軍基地村の語り等々。③台湾:日本帝国期の語り、解放の語り、2・28事件の語り、中華民国化の語り、民主化の語り、二つの中国の語り、少数民族の 語り等々。この所在調査を進めるために、研究分担者・研究協力者・海外研究協力者がそれぞれ役割を決めて、各地域における所在調査を行い、その作品の考察を故なっていくことが必要であろう。 また、その際に(3)韓国や台湾やその他の地域における研究グループと積極的に連絡を取り合うことを次の課題として強く意識し、ネットワーク構築の基礎的な作業を準備することが必要であろう。
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[Book] 満洲の戦後2018
Author(s)
佐藤量
Total Pages
256
Publisher
勉誠出版
ISBN
978-4-585-22691-8
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