2019 Fiscal Year Annual Research Report
困難を示す生徒・学生のための生態心理学的アプローチによる学習環境デザイン
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18H01030
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Research Institution | Sapporo Gakuin University |
Principal Investigator |
森 直久 札幌学院大学, 心理学部, 教授 (30305883)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 彰吾 東海大学, 現代教養センター, 教授 (40408018)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 生態心理学 / アフォーダンス / 学習環境デザイン / 高大連携 / 高大接続 / 間(ま) / あいだ / 共感 |
Outline of Annual Research Achievements |
森は、札幌学院大学1年次前期科目「心理学概論」において、アクティブラーニング状況での受講生の動きを録画した。この観察の眼目は、学修集団の組織化の発達過程に注目することで、本研究の課題2) 適切な「学習ユニット」の特定の解決に資するものであった。学期終了後、受講者集団の組織化に関わるインタビュー調査を行なった。他の成員とあまりかかわらず独りであることの多かった受講生について、この受講生の心理的な特性(発達障害傾向)と受講生によって選択された適応手段とを関連づけた分析を今後行なう予定である。同大学1年次前期科目「臨床心理学基礎ゼミナール」にアクティブラーニング『学び合い』を導入し、意欲、学力、適応力に困難を抱える学生が、『学び合い』提唱者である西川のいう集団の問題解決能力によって修学・就学状況を安定させる効果を期待した。休退学率の変化による効果測定を行なう予定である。これは本研究課題4)「初年次科目の授業デザイン」への布石である。 困難を抱える高校生の実態を把握し、高大連携によるこれら生徒の改善可能性を探るため(本研究課題3の遂行)、北海道立北広島西高等学校の図師教諭の協力のもと、高校教諭との情報と意見の交換を行なった。また茨城県立那珂湊高校の外山教諭の協力を得て、同教諭が実践するコーチングを活かした授業を観察し、困難を抱える生徒の就学可能性向上の仕組みを明らかにしようとした。 田中は、効果的な学習を促進する対等な対話的関係の成立条件を身体性に探り、メルロ=ポンティの「間身体性」の概念にその理論的ヒントを探った。その結果、身体的な非言語コミュニケーションの同期と同調が、対話的関係の必要条件である「間(ま)」を生み出すことを理論的に明らかにした。『学び合い』によってもたらされる集団の問題解決能力の一部がここにあると推量された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
授業観察と受講生のインタビューについては順調に進み(特に高校教諭の協力者の充実による)、課題1から課題4までの解決に資するデータが蓄積されている。一方でデータの分析法、特に処遇の効果を適切に測定する方法を新たに開発する必要が生じている。研究者が事前に想定した限られた特性(たとえば、自己肯定感)だけを測定するにとどまらず、変化の可能性がある複数の特性を同時に測定する方法、事前に想定されなかった特性の変化をとらえる方法が、『学び合い』の効果測定には適切であると思われたからである。観察から得られた仮説を検証する、効果測定方法の開発が必要になったことで、課題に関する明確な結論の提出が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
授業観察によるデータ蓄積、高校教諭との情報交換を継続し、課題3から5の遂行を推進する。現今の状況から、田中が発見した「対等な対話的関係の成立条件である身体的な非言語コミュニケーションの同期と同調」が遠隔授業で実現可能なのかを問う必要が生まれた。当初の研究計画にとって不測の負担であるが、大学や高校への出校が困難な(それゆえ遠隔授業という環境が適合的な)学生・生徒に光明を与える機会である。 アクティブラーニングを停滞させる原因の一つが、質問に対する沈黙や会話への無関与にある。適応不良状態の多くは会話への関与や応答の回避という形を取り、ここから学力不振も生じがちである。会話隣接対の第二成分を回避せず応答をアフォードする「適切なギャップ」の発見を目論む(課題1のさらなる追究)。これはweb会議システムを用いた遠隔授業ではことに重要な問題であり、時宜にかなった研究の発展が期待される。 青森にある宅配便事業所の観察を行なう。発達障害者を多く雇用しながら、障害の兆候が不可視化する労働環境が実現しているという。物的・人的環境のコーディネートと不可視化の関連を明らかにすることで、発達障害学生・生徒の学習環境整備(課題1、2のさらなる追究)が大きく前進するであろう。 『学び合い』では、複数の特性が同時に変化すること、事前に予期されなかった特性に変化が現れることが示唆された。今年度は、このような変化を適切にとらえる測定方法の開発に着手する。処遇(環境改変)を適用する前後で行なわれる授業に関する自由記述を、K-Hコーダーとコレスポンデンス分析によって対照する方法を開発する予定である。 研究協力者である高校教諭の授業実践の継時的観察を継続し、困難を有する生徒・学生にかかわる高大接続 (課題3)を推進する。森と田中の研究成果を高校教諭と共有し、高大連携による生徒・学生の適応向上に貢献する(課題5)。
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Research Products
(4 results)