2019 Fiscal Year Annual Research Report
超低エントロピー大規模スピン多体系の精密制御による量子シミュレーション
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18H01152
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
北川 勝浩 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (20252629)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
香川 晃徳 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (70533701)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 量子シミュレーション / スピン / 磁気共鳴 / 高偏極 / 動的核偏極 |
Outline of Annual Research Achievements |
核スピン多体系の量子シミュレーションの実現に向けて超低エントロピー化の実験を行った。極低温下での実験では、希釈冷凍機から取り扱いが容易になる4He冷凍機に変更し、実験系を再構築した。これまでの実験系と比較すると、サンプル交換に要する時間が短く、TE011共振器を用いないため安定した実験が可能になった。マイクロ波の照射強度や最低到達温度の違いからフッ化カルシウムにツリウムをドープしたサンプルを用いた場合、核スピン偏極は前年度より2割ほど低い値となった。また不対電子スピンを持っているツリウムの濃度を5分の1程度に減らしたサンプルの回転座標系での核スピン格子緩和時間を測定した結果、20倍程度緩和時間が長くなることがわかった。室温下での実験は、新たに導入した色素レーザーを用いて超低エントロピー化を行った。磁場掃引の速さと、色素レーザーの繰り返し速度を変化させて実験を行った。磁場掃引をこれまでより短くすることで電子スピン偏極の減衰を抑えることで、核スピン偏極を2割程度増加させることに成功した。またレーザー照射の繰り返し周波数をこれまでの2倍にしても、核スピン偏極の低下はなく、高偏極化に要する時間が短縮できることがわかった。 電子スピン多体系では、精密に量子状態を操作するために用いていた市販品の任意波形発生器が故障したために、FPGAベースのKu帯パルスESR分光装置の開発を行った。分光計はマイクロ波回路とFPGAを組み合わせることで、17GHzのマイクロ波の発生、送信、受信が行える。また実験系を統一的に扱えるようLabRAD、Pythonを用いてプログラムを構築した。構築した系を用いて、矩形波パルスを照射することで不対電子スピンを持つBDPA分子のラビ振動実験に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度の装置故障により、その代替となる実験系の構築を行ったため、やや計画が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
極低温下での核スピン系では、導波管やオーバーサイズ共振器を改良することにより、スピン格子緩和時間が長いツリウム濃度が薄いフッ化カルシウムでも高い19Fスピン偏極を得ることを目指す。室温下での核スピン系では、パラメータの最適化によって高い偏極が得られたが、パラメータのわずかなずれによって大きく得られる偏極が変わってしまうことがわかった。今後は電子スピン共鳴などを用いて、偏極移動メカニズムを調べることによって安定して高い偏極が得られる条件を探索する。それらの実験からさらなる超低エントロピー化を実現した後、ラジオ波の照射強度や周波数掃引速度を変えることで、最適な断熱条件を実験的に決定し、磁気相転移の実現を目指す。電子スピン系では前年度に引き続き、Ku帯パルスESR分光装置の開発を行う。プログラムを改良することによって量子状態の精密制御に必要な広帯域化や、データ転送起因の実験時間の大幅な短縮を実現する。
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Research Products
(3 results)