2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18H01165
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
近藤 猛 東京大学, 物性研究所, 准教授 (40613310)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黒田 健太 東京大学, 物性研究所, 助教 (00774001)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 光電子分光 / トポロジカル物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
強い電子相関と強いスピン軌道相互作用の両者を兼ね備えた電子系は未開拓であり、新奇なトポロジカル量子相が理論予想されることからも、次なるフロンティアとして注目されている。昨今次々と報告される弱相関なトポロジカル量子相に関する実験結果は、理論予想を忠実に再現するものがほとんどで、理論先攻型の研究テーマと言える。対照的に、強相関を舞台とするトポロジカル状態は、第一原理計算でも再現しきれない新奇量子相が発現する可能性を秘めている。本研究では、極限光電子分光を駆使する直接バンド観察を通じて、理論研究を駆り立てる実験先攻型の研究を目指すことを目的とした。トポロジカル絶縁体を代表とするトポロジカル物質の非自明なバンドトポロジーは、強いスピン軌道結合によって 生じるバンド反転で決まる。これに伴い、結晶表面に特異な電子状態が現れることから 、「見かけ(表面)で中身 (バルク)のトポロジーを知る」ことが可能であり、表面敏感な角度分解光電子分光(ARPES)で観測される電子状態を表面状態のバンド計算と比較して、バンドトポロジーの同定が行われてきた。しかしながら、狭ギャップ半導体や半金属などでのバンド計算では、予測される表面状態やトポロジーが計算パラメー ターに敏感に変化してしまうため、これまで行われてきた見かけに頼る方法では不十分であった。本研究で我々は、バルク敏感ARPES を利用することで、 バンドトポロジーに対する直接的な実験を Ceモノプニク タイドで実現させた 。この実験は、Ce モノプニクタ イド物質群のバルク電子構造の系統的な観察に基づく。そしてプニクトゲンのスピン軌道結合効果によるバンド反転を直接観ることで、トポロジカル相図を実験的に決定するものである。これにより、見かけの測定に頼らない、バンドトポロジーを直接決定する新たな実験方法を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
バルク敏感なARPES を利用して CeX 物質群のトポロジカル相図を実験的に決定した。特に、プニクトゲンのスピン軌道結合とキャリア補償型の半金属的なバンド構造が発端となり、非自明なバンドトポロジーの素になる バンド反転が発生する姿を捉えた。これまで、実験的なトポロジカル物質群の同定は、表面敏感なARPES を利用した表面観測に限られていたが、本研究によりバルク敏感ARPES 測定の新しい実用性が示された。バルク敏感ARPES によるバンド反転観測から、表面に影響されない物質のバンドトポロジーを直接知ることができるので、今後の多彩なトポロジカル物質の発見や開発に向けて強力な実験手法として期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
室温でも巨大な異常ホール効果を示すことから、次世代の磁気メモリ材料として大きく期待される磁性物質のトポロジカル量子状態の解明を目指す。これまで、異常ホール効果は強磁性体でしか発現しないとされてきた。2015年11月に、マンガン化合物Mn3Snにおいて初めて反強磁性体での異常ホール効果が発見された。Mn3Snのスピン構造はキラリティを有しており、これに起因する電子構造のトポロジカルな性質が自発的異常ホール効果の機構に関与していることが理論的に提案されている。特に、大きなベリー曲率を持つワイル半金属状態が、巨大異常ホール効果の有力候補であることが第一原理計算から示唆されており、角度分解光電子分光を用いてトポロジカル磁性物質が持つ電子構造を直接確認する必要がある。ワイル半金属状態は今世界的に物性研究の中心的課題となっているトポロジカル状態であり、2015年8月にTaAsで実験的に初めて証明された。そこで用いられた実験手法が角度分解光電子分光である。ワイル状態は、空間反転対称性あるいは時間反転対称性の破れに伴い発生する。空間反転対称性の破れた結晶構造を有するTaAsに対し、トポロジカル磁性物質では反強磁性秩序がもたらす時間反転対称性の破れに起因する初めてのワイル金属の実現が期待される。複数のグループで発表が相次いだTaAsのワイル半金属電子構造は、バルク敏感性が増す光源を用いたことで、ワイル点の同定に成功している。本研究の対象となるトポロジカル磁性物質においても、新奇なワイル半金属と言える上記の特異な電子構造を証明する上で、バルク敏感な光源を用いる角度分解光電子分光が威力を発揮するものと考えられる。
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Research Products
(23 results)
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[Journal Article] A weak topological insulator state in quasi-one-dimensional bismuth iodide2019
Author(s)
R. Noguchi, T. Takahashi, K. Kuroda, M. Ochi, T. Shirasawa, M. Sakano, C. Bareille, M. Nakayama, M. D. Watson, K. Yaji, A. Harasawa, H. Iwasawa, P. Dudin, T. K. Kim, M. Hoesch, V. Kandyba, A. Giampietri, A. Barinov, S. Shin, R. Arita, T. Sasagawa, T. Kondo
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Journal Title
Nature
Volume: 588
Pages: 518-522
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Multiple topological states in iron-based superconductors2019
Author(s)
P. Zhang, Z. Wang, X. Wu, K. Yaji, Y. Ishida, Y. Kohama, G. Dai, Y. Sun, C. Bareille, K. Kuroda, T. Kondo, K.Okazaki, K. Kindo, X.Wang, C. Jin, J. Hu, R. Thomale, K. Sumida, S. Wu, K.Miyamoto, T. Okuda, H. Ding, G. D. Gu, T.Tamegai, T. Kawakami, M. Sato, S. Shin
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Journal Title
Nature physics
Volume: 15
Pages: 41-47
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Orbital-selective metal-insulator transition lifting the t2g band hybridization in the Hund metal Sr3(Ru1-xMnx )2O72018
Author(s)
M Nakayama, Takeshi Kondo, K Kuroda, C Bareille, M D Watson, S Kunisada, R Noguchi, T K Kim, M Hoesch, Y Yoshida, and S Shin
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Journal Title
PHYSICAL REVIEW B
Volume: 98
Pages: 161102 (1-5)
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Observation of topological superconductivity on the surface of an iron-based superconductor2018
Author(s)
Peng Zhang, Koichiro Yaji, Takahiro Hashimoto, Yuichi Ota, Takeshi Kondo, Kozo Okazaki, Zhijun Wang, Jinsheng Wen, G D Gu, Hong Ding, and Shik Shin
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Journal Title
Science
Volume: 360
Pages: 182-186
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Presentation] 層状反強磁性体EuSn2As2における磁気に結合した二次元電子状態の観測2019
Author(s)
櫻木俊輔, 坂上良介, 黒田健太, C. Bareille, 東伸彦, 岩竹翼, 佐々木秀, 土居抄太郎, 辻本直人, 明石遼介, 國定聡, 野口亮, 黒川輝風, T. K. Kim, C. Cacho, 辛埴, 神原陽一, 近藤猛
Organizer
日本物理学会「第74回年次大会(2019年)」(九州大)
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[Presentation] 高分解能ARPESで調べる様々なトポロジカル相を示す擬一次元ビスマスハライドの電子構造2019
Author(s)
野口亮, 高橋敬成, 黒田健太, C. Bareille, 櫻木俊輔, 國定聡, 黒川輝風, T. Kim, C. Cacho, 辛埴, 笹川崇男, 近藤猛
Organizer
日本物理学会「第74回年次大会(2019年)」(九州大)
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[Presentation] 角度分解光電子分光で解明する銅酸化物高温超伝導体のモット絶縁相近傍の超伝導状態2019
Author(s)
國定聡, 磯野隼佑, 小濱芳允, 酒井志朗, C. Bareille, 足立伸太郎, 櫻木俊輔, 野口亮, 黒川輝風, 関根遼太郎A, 黒田健太, T. Kim, C. Cacho, 遠山貴巳, 辛埴, 常盤和靖, 近藤猛
Organizer
日本物理学会「第74回年次大会(2019年)」(九州大)
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[Presentation] CeSbにおける悪魔の階段的な反強磁性構造転移に伴うバンド構造の変調2019
Author(s)
黒田健太, Nafise Rezaei, 鈴木博之, 芳賀芳範, 新井陽介, 国定聡, 櫻木俊輔, Mojtaba Alaei, Cedric Bareille, 野口亮, 明比俊太朗, 北澤英明, 岡崎浩三, 木下雄斗, 徳永将史, 辛埴, 有田亮太郎, 近藤猛
Organizer
日本物理学会「第74回年次大会(2019年)」(九州大)
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[Presentation] レーザー角度分解光電子分光で観測するCeSbの電子格子結合2019
Author(s)
新井陽介, 黒田健太, 岩佐和晃, N. Rezaei, 鈴木博之, 芳賀芳範, 国定聡, 櫻木俊輔, 明比俊太朗, M. Alaei, 北澤英明, 辛埴, 有田亮太郎, 近藤猛
Organizer
日本物理学会「第74回年次大会(2019年)」(九州大)
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[Presentation] 高分解能 ARPES で調べる悪魔の階段を示す反強磁性体 CeSb2018
Author(s)
黒田健太, Nafise Rezaei, 鈴木博之, 芳賀芳範, 国定聡, Mojtaba Alaei, Cedric Bareille, 野口亮, 中山充大, 坂野昌人, 明比俊太郎, 大田由一, 橋本嵩広, 都築章宏, 岡崎浩三, 有田将司, 出田真一郎, 田中清尚, 徳永将史, 北澤英明, 辛埴, 有田亮太郎, 近藤猛
Organizer
日本物理学会「秋季大会」(同志社大)
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[Presentation] 高次高調波を用いた時間・スピン・角度分解光電子分光の装置開発2018
Author(s)
黒田健太, 原沢あゆみ, Zhigang Zhao, 矢治光一郎, 藤澤正美, 櫻木俊輔, 野口亮, 近藤猛, 小森文夫, 小林洋平, 辛埴
Organizer
日本物理学会「秋季大会」(同志社大)
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[Presentation] レーザーARPESとdHvA効果で解明する五層型銅酸化物高温超伝導体の超伝導と反強磁性の関係2018
Author(s)
國定聡, 小濱芳允, 磯野隼佑, 酒井志朗, 足立伸太郎, Cedric Bareille, 関根遼太郎, 黒田健太, 常盤和靖, 辛埴, 近藤猛
Organizer
日本物理学会「秋季大会」(同志社大)
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[Presentation] 擬一次元物質β-Bi4I4における弱いトポロジカル絶縁体相の発見とそのトポロジカル相制御2018
Author(s)
野口亮, 高橋敬成, 黒田健太, 越智正之, 白澤徹郎, C. Bareille, 坂野昌人, 中山充大, 矢治光一郎, 原沢あゆみ, 岩澤英明, P. Dudin, T. Kim, M. Hoesch, 辛埴, 有田亮太郎, 笹川崇男, 近藤猛
Organizer
日本物理学会「秋季大会」(同志社大)
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