2019 Fiscal Year Annual Research Report
パイロクロア酸化物を舞台とする5d多極子の遍歴-局在現象の解明
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18H01169
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
廣井 善二 東京大学, 物性研究所, 教授 (30192719)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | スピン軌道結合金属 |
Outline of Annual Research Achievements |
Cd2Re2O7はスピン軌道結合金属の候補として注目されている。そこではスピン軌道相互作用に由来するフェルミ液体不安定性から200Kで空間反転対称性を破る相転移を示してよい金属となることが分かっている。低温相はスピン分裂したフェルミ面を有する遍歴多極子秩序状態にあると予想しているが、その詳細は明らかになっていない。一方、スピン軌道結合金属の候補物質は限られており、その概念の確立に向けて新規な物質の開発が望まれている。 今年度の研究では、新しいスピン軌道結合金属候補物質であるPbRe2O6(PRO)の高品質単結晶の合成に成功し、その基本的な物性を明らかにした。PROは良い候補物質として研究されているCd2Re2O7(CRO)と同じく5d2の電子配置を持つRe5+イオンからなるが、両者の結晶構造は全く異なる。PROではレニウム原子が歪んだハニカム格子をなし、室温の構造は空間反転対称性を有する。230Kに電気抵抗や磁化率に異常が観測され、さらに120Kにもう一つの転移が見つかった。これらの振る舞いはCROの逐次転移と極めて類似しており、両者に共通のフェルミ液体不安定性があることを示唆する。 一方、CROでは、初年度の研究で合成に成功した001面を持つ単結晶を用いて、異方的応力印加実験を行った。偏光顕微鏡観察の結果、二軸応力による0.05%程度の歪みで、面直方向にc軸が揃った単一のZドメインに、一軸応力でXシングルドメイン結晶を得た。どちらの場合でも、低温での応力による変化は可逆的であり、Ts2を境にシングルドメイン化する歪みの符合が反転した。これらの応答から正方晶のcがⅡ相ではaより大きくⅢ相では小さいことが明らかとなった。これは低温構造の原子変位パターンから説明される。以上の結果は、C R Oの2種類の多極子相と相転移の起源を理解する上で重要な情報を与える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究では、新しいスピン軌道結合金属候補物質であるPbRe2O6(PRO)の高品質単結晶の合成に成功し、その基本的な物性を明らかにした。結果の一部は、論文として出版されている。PROは良い候補物質として研究されているCd2Re2O7(CRO)と同じく5d2の電子配置を持つRe5+イオンからなるが、両者の結晶構造は全く異なる。PROではレニウム原子が歪んだハニカム格子をなし、室温の構造は空間反転対称性を有する。230Kに電気抵抗や磁化率に異常が観測され、さらに120Kにもう一つの転移が見つかった。これらの振る舞いはCROの逐次転移と極めて類似しており、両者に共通のフェルミ液体不安定性があることを示唆する。 一方、CROでは、初年度の研究で合成に成功した001面を持つ単結晶を用いて、異方的応力印加実験を行った。 (001)表面をもつ結晶を板状に整形し、ピエゾ素子を用いて面方向に異方的応力を印加して歪ませることにより、低温正方晶ドメインの制御を行った。偏光顕微鏡観察の結果、二軸応力による0.05%程度の歪みで、面直方向にc軸が揃った単一のドメインになった。一方、面内[100]方向の一軸応力による同程度の歪みにおいて、応力方向にc軸が揃ったシングルドメイン結晶を得た。どちらの場合でも、低温での応力による変化は可逆的であり、Ts2を境にシングルドメイン化する歪みの符合が反転した。これらの応答から正方晶のcがⅡ相ではaより大きくⅢ相では小さいことが明らかとなった。これは低温構造の原子変位パターンから説明される。さらに、一軸応力で単一ドメイン化したCROにおける電気抵抗測定から、正方晶のa, c軸方向の抵抗が25%もの大きな異方性を持ち、その大小関係はTs2において反転することが分かった。以上の結果は、C R Oの2種類の多極子相と相転移の起源を理解する上で重要な情報を与える。
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Strategy for Future Research Activity |
PROに関しては引き続きその物性解明を進める。特に230Kの相転移において確認された構造変化が反転心を失うものであるかを確かめる必要がある。低温相は恐らく単斜晶であるが、反転心の有無を確かめるためには特別な実験が必要となる。例えば、収束電子線回折実験は対称要素の変化に敏感な手法であるが、予備実験では、電子線照射による試料のダメージが大きく、その判別は困難であった。今年度の研究では、SHG測定を理研グループ、及び、スタンフォードグループと共同研究することを計画している。これにより、反転心の消失が確認できれば、230Kの相転移がスピン軌道結合金属特有の転移であることが確かめられる。さらに、120K以下の最低温相の構造解析を進める予定である。 CROに関しては多極子相の物性を明らかにするために、シングルドメイン化した結晶を用いて、電気抵抗などの輸送現象の本質的な異方性を測定する。さらに、シングルドメインとなった結晶において、多極子相のカイラリティに関するドメイン形成の観察とその制御を目指す。これにはエーデルスタイン効果などの電気磁気輸送現象を利用することが考えられる。以上により、Cd2Re2O7における多極子相の物性を明らかにする。 さらに、最終年度の目標として、新しいスピン軌道結合金属の探索を行いたい。このような新規な物理概念を確立するためには、多くのモデル物質による系統的な研究が欠かせない。そのヒントを探し、今後の研究につなげたい。
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Research Products
(8 results)