2018 Fiscal Year Annual Research Report
電子相関が創出する電子液晶現象の理論:素励起、超伝導および量子臨界現象
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18H01175
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
紺谷 浩 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (90272533)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
土射津 昌久 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (70362225)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / 鉄系超伝導体 / 銅酸化物超伝導体 / 重い電子系 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄系および銅酸化物超伝導体、重い電子系など幅広い強相関電子系おいて、電子系の回転対称性や並進対称性が自発的に破れる「電子液晶秩序」が観測され、脚光を浴びている。ネマティック相の近傍では多彩な非従来型超伝導が発現するため、超伝導機構との関係が注目を集めている。2018年度は以下の研究を遂行した。 (1)B2g対称性ネマティック秩序:過剰ホールドープ鉄系超伝導体CsFe2As2では、通常の鉄系超伝導体のB1gネマティック秩序から45度傾いた、B2gネマティック秩序が観測される。その説明のため、我々は高次多体効果であるバーテックス補正を考慮した計算を行い、CsFe2As2の特徴であるDirac型フェルミ面の効果により、B2g対称性を有するボンド秩序(=相関ホッピングの4回対称性の自発的破れ)が出現することを見出した。更に銅酸化物超伝導体において、hot spot構造が発達する時にB2gボンド秩序が実現する結果を得て、Hg系銅酸化物超伝導体におけるB2gネマティック秩序を説明した。 (2)重い電子系CeB6における多極子秩序:重い電子系は多彩な多極子秩序の宝庫であるが、その微視的理論の多くは未解明である。我々は、f電子の強いスピン軌道相互作用と強い電子相関を考慮した理論を構築し、バーテックス補正により様々な多極子秩序が安定化する機構を見出した。特に、遍歴描像に基づき、CeB6における4極子秩序および磁場誘起8極子秩序に微視的理論を構築した。 (3)重い電子系CeCu2Si2におけるS波超伝導機構:CeCu2Si2に対する多軌道周期アンダーソン模型を構築し、Migdal近似を超えた多体効果を考慮した超伝導ギャップ方程式に基づき、超伝導機構を研究した。その結果、16極子揺らぎにより符号反転の無いS波超伝導が導かれることを見出し、CeCu2Si2の実験事実の説明に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主題である、強相関電子系における多彩な「電子液晶秩序」の微視的機構に対する研究に進展があった。特に、過剰ホールドープ鉄系超伝導体CsFe2As2で観測されたB2gネマティック秩序の正体が「B2g対称性ボンド秩序」であり、ボンド秩序の起源がスピン揺らぎ間の多体干渉効果(Aslamazov-Larkinプロセス)であることを見出した。更に、重い電子系CeB6の多極子秩序の微視的機構は長年の課題であったが、Aslamazov-Larkinプロセスを考慮した本理論により、遍歴描像に基づく説明に成功した。本理論に基づき、更に多彩な電子液晶秩序が理解できる可能性がある。 また、電子液晶秩序の揺らぎが媒介する超伝導の理論に関しても進展があった。我々は重い電子系CeCu2Si2に対して、Migdal近似を超えた多体効果を考慮した超伝導ギャップ方程式を解析した。その結果、16極子揺らぎにより符号反転の無いS波超伝導が導かれることを見出し、CeCu2Si2の実験事実の説明に成功することができた。本理論は、今後様々な強相関超伝導体に適用できる可能性があるため、その研究を発展させる。 また、鉄系超伝導体におけるスピンレゾナンスの理論研究を行った。保存近似である揺らぎ交換(FLEX)近似に基づき、自己エネルギーのエネルギー依存性を正確に計算し、ギャップの符号反転が無いS++波状態においてもスピンレゾナンスが出現することを見出した。つまり、中性子散乱実験の結果はS++超伝導状態においても説明である。これは鉄系超伝導体の超伝導発現機構に対する重要な知見を与える。
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Strategy for Future Research Activity |
強相関電子系における「電子液晶秩序の更なる多様性」を理論的に研究する。具体的には、BaFe2As2で観測される、構造相転移温度TSより数10K高温のT*から出現する「面内対称性の破れ」について、その正体を明らかにする。我々はT*において「反強軌道秩序」が生じる可能性を考えているが、これまで知られている電子液晶秩序は(重い電子系CeB6を除き)強的秩序であるため、反強軌道秩序が生じる理由とその出現条件を理論的に明らかにする。また、銅酸化物超伝導体やSr2IrO4では、渦電流を秩序パラメーターとする新奇な液晶秩序が出現している可能性がある。我々は、バーテックス補正の理論を拡張して、この理論解明に取り組む。 また、電子液晶秩序の揺らぎが媒介する超伝導の理論を発展させる。我々はこれまでに、多極子秩序など局所的秩序の揺らぎが、クーパー対を媒介することを見出してきた。しかし、ボンド秩序などの「非極子的秩序」の揺らぎが媒介する超伝導については、理論的研究は皆無であるため、その理論を構築する。
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Research Products
(10 results)