2018 Fiscal Year Annual Research Report
時空間分解テラヘルツ流動光学の創出とゴムの力学特性と内部フィラー構造の相関解明
Project/Area Number |
18H01190
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
岡野 真人 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (10612525)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | テラヘルツ分光 / 高分子複合材料 / 偏光計測 / 流動光学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、研究代表者が見出した「テラヘルツ偏光計測によるゴム複合材料の内部フィラー構造プローブ」を更に発展させ、時空間分解テラヘルツ偏光計測を用いてカーボンブラックフィラーを添加したゴム複合材料(黒色ゴム)の動的な力学特性と内部フィラー構造との相関を明らかにすることである。 本年度は、代表的な力学応答の一つである応力緩和現象に着目し、黒色ゴムを大変形させた時に生じる応力緩和にともなう内部フィラー構造の振る舞いを明らかにすることを目標として研究を行った。大変形時は力学応答が非線形な振る舞いをすることが知られており、また、試料の固定方法(拘束条件)によって応力やひずみが非一様な空間分布を持つと考えられる。そこで、テラヘルツ偏光計測によって複屈折や複素誘電率のようなマクロな物性値の時間・空間依存性を測定し、物理モデルを通じてミクロな内部フィラー構造の変化を推定することを試みた。自作の高速テラヘルツ偏光分光装置によって応力緩和にともなう複屈折の時空間分解測定を行ったところ、応力緩和とほぼ同じ時定数で複屈折にも緩和が生じていることを明瞭に観測した。一方で、複屈折緩和の振る舞いは測定箇所、すなわち試料の拘束条件にはあまり依存しないことを見出した。また、いくつかの異なる黒色ゴムの複屈折緩和を測定したところ、フィラーとゴム分子の相互作用が重要な役割を果たしていることが明らかになった。この成果は、まさに「テラヘルツ偏光計測によってゴム複合材料の力学応答とフィラー構造の相関を解明する」ことができることを意味しており、本研究課題の重要性を示す成果であるといえる。本内容に関しては日本物理学会において発表を行い、現在、論文化に向けて研究を継続している。また、上記の研究と並行して次年度以降に行う低温測定に向けた装置の導入を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的である「テラヘルツ偏光計測によってゴム複合材料の力学応答とフィラー構造の相関を解明する」ことに関しては、研究実績の概要欄で述べたように応力緩和に関して重要な研究成果が得られている。また、他の関連する成果についても、日本物理学会および国際学会(CLEO Pacific Rim 2018, IRMMW THz-2018)で口頭発表を行っており、現在、論文投稿に向けて準備をしているところである。さらに、今後の低温測定に向けた装置の選定や導入も進んでおり、研究は「おおむね順調に進展している」と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、昨年度に得られた研究成果を論文化しつつ、低温測定に向けた装置の改良や実験系の構築を行う。これまでの測定は全て室温で行っていたが、測定装置の限界によって動的な力学応答を調べられる時間領域が限られていた。しかし、更に深く動的応答を調べ、それに関与する内部フィラー構造の役割を理解するためには、より広範な時間領域での測定が重要である。そこで、温度-周波数換算則を利活用し、温度を変化させながら動的測定を行うことで、より広範な時間領域における動的な力学特性に関してテラヘルツ偏光分光を通じてアプローチすることを目指す。また、昨年度は装置の故障によって実験が一時的に停滞してしまった時期があったため、その代替案としてファイバーレーザーを用いたテラヘルツ発生系の開発にも着手する予定である。
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