2019 Fiscal Year Annual Research Report
スケールアップモデルで探る細菌のメカニカルデザイン
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18H01192
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
和田 浩史 立命館大学, 理工学部, 教授 (50456753)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 弾性シェル / スナップフィット |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、とくに円筒形の弾性シェルがしめすさまざまな力学的剛性や不安定性の仕組みを、定量的なマクロ実験と詳細な数値シミュレーション、さらには理論的考察を組み合わせて調べることを提案している。その背後には、細菌などの微生物あるいは植物細胞など、細胞壁をもつ生物の細胞がしめす力学的強さと柔軟さの起源を明らかにし、それを物理学の言葉で理解しようという目的がある。 そのなかで、膨圧の効果をモデル化するため、高い内圧を受けた弾性シェルを安定的に準備し、内圧を制御しつつさまざまな力学特性を調べるということを計画してきた。しかしこの方向性ではあまり制度の高い計測に至っておらず、実験系のさらなる改善が必要であることが判明した。一方で、円筒形のシェルをそれとは半径の異なる円筒に接触させると、いわゆるスナップフィットのふるまいをしめすことを見出した。これはシェルが他の物体から圧力を受けることで、創発的に双安定系になることを意味する。そこで今年度は、この系のふるまいを精密なマクロ実験(形状および力学計測)、数値シミュレーションおよび弾性論にもとづく解析によって詳細に調べ、それを明らかにした。その結果、はめ込みと引き抜きに必要な外力の差(内在的な非対称性)が、シェルの形状と乾燥摩擦によって生み出されることが分かった。この仕組みはスケールに依存しないため、二つ以上の物体が結合・乖離する系に普遍的にかかわっている可能性がある。またスイッチなどとして工業製品に応用されているデザインに、力学的な根拠を与える成果である。これらの成果はすでにプレプリントとして公開しており、論文は現在、学術誌において査読中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目にあたる今年度も、円筒形の弾性シェルについて新規な現象を発見し、そのふるまいをマクロ実験、数値シミュレーションおよび解析的理論を組み合わせて詳細に至るまで明らかにすることができた。初年度に続いて、今年度の成果を論文としてまとめるところまで達成できた(現在、学術誌にてレビュー中)ので、おおむね順調に進んでいると考えている。初年度は微小変形の性質のみに注目したが、今年度の成果はもっぱらシェルの大変形に関係する成果であり、その点でも研究計画にかなり忠実に進んでいるといえる。ただし、内圧を制御してその効果を調べる方向の研究には改善の必要性を認識しており、この点については3-4年目をかけて取り組む。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、つぎの2つの方向性をすすめたい。ひとつは、円筒型弾性シェルの「大変形に対する応答:不安定性の抑制、増幅とその仕組みの解明」(研究計画書より)をさらに押し進めたい。このテーマには豊富で魅力的な未解決問題が多くあり、1、2年目の成果を踏まえてさらに推進することができると考えている。具体的には、円筒形シェルの示すスナップフィット機構など、かたち、弾性、摩擦力の相互作用によって生じる動的および静的現象に注目する。また、折り紙および切り紙の考え方をもとに、平面からスナップによって立ち上がるシェル構造についても研究を進める。これらの幾何的システムにおける多安定状態がどのように出現するのか、弾性エネルギーにもとづく安定性の観点から考察する。プラスチック模型や3Dプリンタなど、各種のコンピュータファブリケーション技術をもちいた実験、数値シミュレーション、解析的な理論を組み合わせて進める。 もうひとつは内圧の効果を調べるマクロ実験系の確立である。我々には必要な技術力が不足しているのかもしれない。内圧制御による形態変化は、ソフトロボティクスなどでも盛んに利用されているので、それらのグループに技術支援を受ける方策なども検討しつつ、研究を進めていく。
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