2020 Fiscal Year Annual Research Report
Non-equilibrium ion spectroscopy of tungsten highly charged ions for measurements of ionization cross sections
Project/Area Number |
18H01201
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Research Institution | National Institute for Fusion Science |
Principal Investigator |
加藤 太治 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (60370136)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂上 裕之 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (40250112)
中村 信行 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 教授 (50361837)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 多価イオン / 電離断面積 / 電子ビームイオントラップ / 極端紫外スペクトル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、従来の方法では困難であった、高価数のタングステン多価イオンの電子衝突電離断面積を測定することを目的とし、そのための新しい測定方法の確立を行う。本測定では、電子ビームイオントラップ内に生成・トラップした高価数多価イオンを、電子ビームエネルギーをパルス変調させて電離非平衡状態を生成し、平衡状態へと緩和する過程で多価イオンが発する極端紫外域の発光線スペクトルの時間変化から電離断面積を求める。本年度は、この測定原理を実証するために、電気通信大学の小型電子ビームイオントラップ(CoBIT)装置で測定された金の多価イオンの極端紫外域発光線スペクトルの解析を行い、金の17価イオンから18価イオンの基底状態と準安定励起状態への部分電離断面積をそれぞれ分けて求めることには成功した。また、相対論的歪曲波ボルン近似計算の結果と比較をすることにより、本測定結果の妥当性を確認できた。従来の交差ビーム法では部分電離断面積の測定はできない。よって、部分離断面積を直接測定できるという本測定方法の特長を示すことができた本成果の意義は大きい。なお、本測定によって得られた金17価イオンの電離断面積は、これまで実験的な測定例はなく、本研究によって初めて行われたことになる。また、今回の測定結果を基準とし、金の高価数多価イオンの様々な電離過程の理論モデルを定量的に検証することができるようになったことも本成果の重要な点である。 これらと並行して、今後、本測定を核融合科学研究所のCoBIT装置でも実施することができるように、電源の制御部品の組み立ても進めた。 本研究課題に関連する研究テーマで大学院生1名が修士の学位を授与され、学会発表で講演奨励賞を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度、電気通信大学のCoBIT装置を用いた測定データの解析によって、測定原理の実証を行うことができたことは、本来の目的であるタングステン多価イオンの電離断面積測定の実施に向けて大きな進展といえる。しかし、3月から新型コロナ感染対策で在宅勤務が増えたことで実験室での作業時間が大幅に制約され、核融合科学研究所のCoBIT装置の改修が計画通りに進んでいない。
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Strategy for Future Research Activity |
金の多価イオンを対象とした研究で分かった以下のような課題に対する方策と、それに伴う研究計画の一部変更を行う。 1)測定された電離断面積には、基底状態だけでなく準安定励起状態にあるイオンからの電離の寄与がかなり含まれていることが分かった。したがって、電離される前に準安定励起状態の多価イオンがトラップ内にどの程度含まれているのかを別途測定する必要が生じた。これは、電離前の定常状態での発光線スペクトルの分析をすることにより可能である。 2)また、本測定法で得られた電離断面積には30パーセント程度の不定性がある。これは、主に、解析した極端紫外発光スペクトルの信号が弱いことによる統計的な不定性だと考えられるため、分光測定回数をさらに増やすことで不定性を抑えることを試みる。 3)金多価イオンの電離断面積の測定結果と理論計算の結果には、測定値の統計的な不定性を超えた不一致があることが分かった。そのため、現在の理論計算に含められた電離過程の物理モデルを見直し、新しいモデルを含めた理論計算と測定結果との比較を行い、不一致の原因を明らかにする。 4)今回の金多価イオンの測定では、発光線強度と多価イオン密度との定量的な関係を表すために、電子密度が低い極限で正しい物理モデル(コロナモデル)を用いているが、CoBITの典型的な電子密度は決して低いとは言えない。したがって、衝突・輻射モデルを用いた方法に改良する計画である。
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