2019 Fiscal Year Annual Research Report
宇宙マイクロ波背景放射観測の高感度化を実現する観測システム
Project/Area Number |
18H01240
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西野 玄記 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (80706804)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | CMB / 偏光観測 / データ収集 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は宇宙の始まりにあったとされる指数関数的な急膨張「インフレーション」を実験的に検証するため、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の偏光観測感度向上を目的とした研究を推進している。特に本研究課題においては、地上CMB偏光観測実験のおかれている厳しい環境を高精度にモニターするシステムの導入や観測システムの高度化などを行い、系統誤差の低減や観測効率の向上をもたらすことによって、CMB観測精度の向上を実現することを目指している。 2019年度においては、前年度に新型受信機が導入され、それを用いた試験観測が開始されたSimons Array実験において、望遠鏡制御システムの改良、冷却系にまつわる問題の低減、環境モニターシステムの拡充、データ収集システムの改良などを行うことにより観測システムに関する様々な性能向上に関する研究を遂行した。 それらの研究成果は、2019年度中に行った二度の南米・チリの観測サイトへの海外出張において、実際の観測システムへと導入された。例えば、検出器読み出しエレクトロニクスの高精度温度モニターを実現するために、ミリケルビンの精度での温度測定を可能とする新たな温度測定系を開発し、それを観測サイトの望遠鏡システム上へインストール、運用を開始した。また、観測時の望遠鏡の動きに伴う振動の影響が冷却系に見られたために、望遠鏡の動きを制御するプログラムの改善や振動モニター系の拡充、冷却系のチューニングなどを行うことにより、問題の低減、観測運用の円滑化に貢献した。さらに、高標高における計算機の想定外の動きに対処するために、計算機システムの改良を行った。それらの研究によって、Simons Array実験において試験観測によるデータ収集が安定的に稼働し、初期の装置性能評価が行われた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
実験に用いる冷却系のトラブル、観測サイトに電源を供給する発電機のトラブルなどの実験環境に纏わる諸問題のために、一時観測の中断を余儀なくされるなど、若干の遅れがあり、当該年度予算は繰越しを行った。さらに、引き続く年度においても、世界的な新型コロナウィルスの流行のために、観測サイト現地における作業が不可能なものとなるなど、その後の計画の遂行にもいくらかの困難があった。 しかしながら、そのような困難な環境下においても、チリの現地スタッフらとの密接な協力関係により、遠隔などで必要な作業を遂行した結果、研究実績の概要でも述べたように、本研究における観測システムの高度化の研究は、実際のCMB偏光観測へと順調に適用され、試験観測における円滑なデータ収集に寄与していることから、当該年度の当初の目的は現在までには達せられたと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては、引き続き、新型コロナウィルスの流行の影響のために、観測サイトにおける実験、検証作業等が困難となった環境変化にいかに対応していくかが焦点となる。 予算の繰り越しをした関係上、当該年度の次年度の研究は現時点で既に完了しており、そのため、同時期に提出されることになる次年度の実績報告書のとおり、大学の実験室や遠隔でできる研究を推進することとなった。 さらに、観測データ取得は順調に進められていることから、そのデータ解析を進め、初期科学成果を出していくことが本研究課題の最終年度の課題となる。
|