2019 Fiscal Year Annual Research Report
マイワシレジームの最大個体数を百年規模で減少させた北西太平洋の海洋プロセスの解明
Project/Area Number |
18H01292
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
加 三千宣 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 准教授 (70448380)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉江 恒二 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 技術研究員 (00555261)
小野寺 丈尚太郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 主任研究員 (50467859)
谷 幸則 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (10285190)
槻木 玲美 松山大学, 法学部, 教授 (20423618)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | マイワシレジーム / 珪藻生産量 / 数百年規模変動 / 鉄供給指標 / 珪藻休眠胞子 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年6月、予定通り青森県六ケ所沖、岩手県久慈沖、宮城県気仙沼沖、北海道根室沖、茨城県鹿島沖で海底ピストンコア・グラビティーコア試料・マルチプルコア試料を採取し、高知大学海洋コア総合研究センターにおいて岩相記載、帯磁率・CT等の物性分析をで行った(加・学部生)。このうち、2019年度は、青森県六ケ所沖コア試料、茨城県鹿島沖コア試料を用いて過去3000年(約100~200cm)を対象に色素・生物源オパールの分析を行った(愛媛大学学部生)。また、コア試料の年代決定を行うため各コア試料について浮遊性あるいは底生有孔虫殻の拾い出しを行い、集めた有孔虫殻の14C年代を測定し、年代決定を行った(加)。表層15cmの年代については、γ線測定システムでPb-210法によって年代推定を行った。青森県六ケ所沖のコア試料50試料について、珪藻殻と同時に休眠胞子数を分析した(小野寺)。 得られた結果は次の通りである。 1)14C年代を測定した結果、GC01コア試料の深度128cmで3910 yr BP、GC05コア試料の191cmで4300 yr BPの14C年代が得られた。 2)GC01コア試料の過去2400年間の色素年間沈積量記録には、長期増加トレンドを示す一方で、GC06コア試料の過去3000年間の色素年間沈積量記録には、長期減少トレンド示すことがわかった。また、生物源オパールも同様の傾向を示す。GC06コアサイト、つまり親潮域では一次生産や動物プランクトン生産に長期減少トレンドが認められ、これは別府湾の魚鱗記録から得られたマイワシの長期減少トレンドと一致した。マイワシ魚鱗記録に認められた300年程度の周期性も低次生産記録に認められ、親潮域の低次生産とマイワシ個体数に何らかの因果関係があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、『100年規模でマイワシレジームの最大個体数を低下させた原因は、オホーツク海からの鉄供給と北西太平洋の一次生産の低下にある』という仮説を検証することを目的として、海洋コア試料を用いて古海洋学的研究を進めてきた。当初予定していた北西太平洋の海底コア試料の採取に成功し、そのコア解析も順調に進めることができた。14C年代測定も、昨年度の繰越による研究費を有効に利用して、有孔虫の拾い出し、AMSによる14C年代測定も7割り程度終えた。それにより、2本のコア試料について詳細な年代決定が可能となり、研究課題であった高解像度の一次生産記録復元が可能なコア試料であることがわかった。また、新たに色素分析の研究者の分担者を加えたことで、一次生産やマイワシの餌となる動物プランクトンの長期変動に関する貴重な情報が得られたのは大きい。 マイワシの長期減少トレンドが親潮域で認められた一方で、黒潮続流域にあたるGC01サイトでは、それとは異なる変動パターンを示したこと、数百年スケール変動がマイワシには認められたが、親潮域にも同様の数百年スケール変動が見つかったことから、黒潮続流域よりもオホーツク海由来の鉄供給の影響を受けやすい親潮域の低次生産とマイワシの個体数変動が関連している可能性が示唆された。これらの結果により、本研究課題の仮説検証に一歩近づいた。ただし、コア試料の上部にマイワシに見られた長期変動パターンが認められず、この点に関しては別の地点のコア試料の解析結果を踏まえ考察する必要がある。 昨年度、培養実験によって得られた本研究に関連する成果を国際誌に投稿し、成果の公表も順調に進んでいる(杉江)。 以上のことから、本研究課題の進捗は概ね順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の研究結果から、親潮域の低次生産変動にマイワシの長期変動と類似した変動パターンが見つかった。このことを踏まえ、親潮域のもう一つの地点について同様のコア解析を行い、マイワシ個体数の長期変動を引き起こす原因として親潮域の低次生産変動の役割について明らかにする必要がある。それに加え、鉄供給指標として珪藻群集や休眠胞子組成を明らかにすることで、低次生産と鉄供給との関係について明らかにする必要がある。2020年度は、これらの課題について推進していく予定である。
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