2018 Fiscal Year Annual Research Report
炭素系薄膜を用いた高効率・高耐久性の高速横滑り型摩擦発電システムの開発
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18H01358
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
崔 ジュン豪 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30392632)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中尾 節男 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (60357605)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 摩擦発電 / DLC膜 / 高効率 / 高耐久性 |
Outline of Annual Research Achievements |
1年目は,高誘電率,低摩擦性DLC膜の開発および帯電材としての基礎性能評価を行なった.研究実績の詳細を以下に示す. ① 高誘電率・低摩擦性DLC膜の開発:プラズマ利用イオン注入成膜装置(PBII)により,高誘電率、低摩擦性DLC膜として、F-DLC,Si-DLC,H-DLC膜を作成した。原料ガスはそれぞれC6F6 (or C4F8+C6F6),Si(CH3)4+C7H8,C7H8を用いた.誘電特性や摩擦特性は,表面電位,摩擦係数の測定,硬さ評価を用いて行なった. ② DLC膜の表面電位測定:Kelvin Force Microscopyを用いた仕事関数を測定することで,DLC膜の帯電特性の測定を行なった.F-DLC膜が他のDLC膜に比べて仕事関数が0.5 eV程度大きく,その他のDLC膜同士の差異は0.1 eV程度の範囲であった.また,Si-DLC膜はやや小さな仕事関数を示すことが分かった.一般的に,仕事関数が小さいほど電子を放出しやすく正に帯電しやすい材料であり,仕事関数が大きいほど負に帯電しやすい材料であると考えられる.したがって,F-DLC膜がDLC膜の中で負の帯電傾向をもつこと,Si-DLCがやや正の帯電傾向を示すことが明らかになった. ③ DLC膜を用いた摩擦発電システムの基礎性能評価:DLC膜の摩擦発電性能の評価のため,Kapton,Teflonの組み合わせにおいて発電量の測定を行なった.DLC膜とTeflon間の測定結果,安定した出力を示し,10~30μA,40~80Vの出力を得た.DLC膜の元素添加に関しては,F-DLCが負の帯電列を持つため,Teflonとの摩擦発電では,DLC,Si-DLCに比べて出力が小さくなることがわかった.またDLC膜の内部構造に関してはDLC構造が最大出力となり,GLC構造,PLC構造では発電量は減少することがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目の目標としては,高誘電率(帯電特性),低摩擦性DLC膜の開発および帯電材としての基礎性能を評価することであった.帯電特性に関しては,Kelvin Force Microscopyを用いて,開発した種々のDLC膜に対して仕事関数を測定することで,明らかにした.また、接触-分離モードの接触・分離過程においての電流の向きを測定することで,二つの帯電材のどちらが正に帯電しているかを判別することができるので,様々な帯電材を組み合わせることで,DLC膜を含めた新たな摩擦帯電列を作成することができた.また,開発したDLC膜を帯電材として用いて、TeflonおよびKapton材に対しての摩擦発電実験を行い、DLC膜は,従来のポリマー材に比べて同等またはそれ以上の発電特性を示すことを明らかにした.さらに,DLC膜の内部構造やDLC膜への元素添加の影響に関しての実験も行い,DLC膜の内部構造に関してはDLC構造が最大出力となり,GLC構造,PLC構造では発電量は減少すること、F-DLCが負の帯電列を持つため,Teflonとの摩擦発電では,DLC,Si-DLCに比べて出力が小さくなることを明らかにした.以上の成果から,当初の計画通り研究が概ね順調に進んでいるといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果により,DLC膜は,従来のポリマー材に比べて同等またはそれ以上の発電特性を示すことを明らかになった.また,DLC膜の内部構造やDLC膜への元素添加が発電特性に影響を及ぼすことがわかった.それらの成果をベースに今後は以下の研究スキームで続けて研究を行う予定である. ①接触・分離モードから横滑りモードへ:本研究では発電性能を観察するため主に接触・分離モードを用いたが,炭素系薄膜の摩擦発電に対する適用という点では,横滑りモードの摩擦帯電方式を使用することでより高発電効率が達成できると考えられる.その理由としては,接触・分離型の摩擦発電試験では,帯電飽和させて発電した結果と比較して約10%の出力に留まり,接触・分離による帯電のみでは飽和状態の10%程度しか帯電していないと推測される.発電量は帯電量に比例するため,本質的に接触帯電方式より,横滑りの摩擦帯電方式のほうがより大きな帯電量となり,その結果,大きな出力が得られると考えられる.また,DLC膜は横滑り摩擦帯電方式の欠点である摩耗に対して有効な解決策であるため,今後,横滑りモードへのDLC 膜の適用に重点をおいて摩擦発電システムの開発を行なっていきたいと考える. ②DLC同士の摩擦発電システムを開発:負に帯電するF-DLC膜と,それに対する帯電材として正に帯電するDLC膜を組み合わせることで,更なる高耐久性,高発電効率が達成できると考えられる.本年度の研究成果より、F-DLC膜と正に帯電する傾向があるSi-DLC膜のペアーが有望であると考えられる.今後,最適なDLCペアーを用いた横滑り型摩擦発電システムの開発を行なっていきたいと考える.
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Research Products
(13 results)