2018 Fiscal Year Annual Research Report
超音波フェーズドアレイによる遠隔からの表面摩擦感制御
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18H01404
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
牧野 泰才 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (00518714)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 触覚情ディスプレイ / ヒューマンマシンインターフェース |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では超音波フェーズドアレイの位相制御により,物体の表面上に高い音圧場を形成し,その表面摩擦を低下させることで任意の摩擦感を提示する新しい触感提示手法の実現を目指すものである. 申請時には,任意の対象表面に対して,遠隔からの集束超音波刺激により摩擦を低減させられると考えていたが,本年度の研究の結果,必ずしも任意の対象表面において摩擦が低減されるわけではないことを確認した.いくつかの表面で検証した結果,申請時にその摩擦低減効果が確認されていた発泡スチロールが,検証した中では最も摩擦低減効果が高いことが確認された. そこで本年度は,この摩擦低減効果の原理を解明することに目的を絞り,超音波を対象表面に照射した際に,対象表面上で何が生じているのかを確認することとした.複数種類の表面の振動を計測した結果,対象の音響インピーダンスが空気と同程度の場合に摩擦低減効果が得られることが確認された.これは,対象表面で超音波が反射するのではなく,超音波により対象表面の振動が励起されることで摩擦が低減されているということである.現状確認した物質の範囲の中では,発泡スチロールを用いた場合が最もよく摩擦が低減されているが,これは,発泡スチロールが空気をよく含むことにより他の固体よりも音響インピーダンスが低いためと考えている.
以上より,当初の計画のように,遠隔から任意の対象表面の摩擦を低減することが困難であることが確認された.一方で,発泡スチロール上であれば,超音波の届く範囲において摩擦を変化させられることから,従来の摩擦変化タイプのものよりも,広範囲に触感を提示可能な新しい触覚ディスプレイを実現することが可能となる.次年度以降は,その観点にフォーカスし研究を行う.また,摩擦低減効果の高い対象表面の探索も行う.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では任意の対象表面において摩擦の低減効果が得られることを期待し研究を計画していたが,本年度の研究により,その効果が特定の対象表面においてしか得られないことが確認された.その点においては,当初の計画通りではない. 一方,そのように対象が限られたことで,摩擦低減が生じない対象との間で比較を行うことで,どのような原理で,遠隔からの集束超音波により摩擦の低減が生じているのかを検証しやすくなった.本年度は超音波の照射角度を変化させたり,あるいは対象表面の振動振幅を計測したりすることで,この摩擦低減が生じるメカニズムの基礎的な部分を検討できたという点で,本研究の基礎を固めることができ,順調に進んでいると考えている. 当初の計画のように任意の対象表面に適用することは出来ないが,一方で発泡スチロールという軽量で可搬性の良い素材上であれば当初の予定通りの機能の実現が可能であるため,次年度以降は大面積におけるプロジェクションベースのインタラクションの実現を考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により,遠隔から超音波フェーズドアレイを用いて対象表面の摩擦を低減させるためには,対象表面の材質に制約があることが確認された.具体的には,これまでの探索範囲では発泡スチロールが最もよく摩擦を低減すること,照射角度としては45度程度が最もよく,垂直すぎても浅すぎても知覚されにくいことなどが確認されている. 今後はこのような基礎特性を元に,投影された映像とのインタラクションを可能とする市販のデバイスを活用し,その映像に遠隔から摩擦変化を提示できる新たな触覚インタフェースの実現を目指す.これまでに提案されてきた摩擦を変化させるタイプの触覚ディスプレイは,静電気を利用したものや超音波を利用したものなど複数あるが,どれも対象となるスクリーン側に構造を持たせる必要があった.本手法では,対象となるスクリーンの材質に制約はあるものの,電子的な装置を搭載する必要がないというメリットを持つ.例えば自由な形状の板に対して触感を提示するということも可能である.このような利点を活かしたアプリケーションを想定しながら,基本原理を実証できるデバイスの実現を目指す. 一方で,よりよい素材の探索・開発も同時に行うことを考えている.これまでの観測により,対象の制約としては,音響インピーダンスが低く,一方で人のなぞり動作に対してある程度の剛性を持つ必要があると判明している.そのような素材を検討し,発泡スチロール以外の素材の利用可能性,あるいはそのような特性を持つような対象の構造等を検討する.また,このような原理で摩擦を低減する際に,定量的にどの程度摩擦が減少するのかを評価し,今後の触覚インタフェース設計時の指針となる基礎データを取得することを目指す.
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