2019 Fiscal Year Annual Research Report
超音波フェーズドアレイによる遠隔からの表面摩擦感制御
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18H01404
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
牧野 泰才 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (00518714)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 触覚ディスプレイ / 触覚情報処理 / 音響メタマテリアル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,遠隔から超音波を用いて対象表面を励振させることで,人がその表面に触れたときの摩擦感を低減させる触覚ディスプレイについての研究である.本年度の開始前までに,対象表面が空気と近い音響インピーダンス特性を有していることが必要であり,そのとき,十分な振幅で表面が励振され摩擦変化を提示できることが示されていた.それを満たす対象として,発泡スチロールが適していることも確認されていた. 本年度はこれを受け,主に以下の3点についての研究を行った.1つは実際のインタフェース利用の検討として,プロジェクションされた映像に触感変化を付与するシステムの実現である.机上に投影可能な短焦点のプロジェクタと,指先の位置検出が可能な赤外線センサを組み合わせ,机上に置かれた発泡スチロール上に映像を投影し,その映像に応じて遠隔から摩擦感を変化させるシステムを実現した.本成果はSIGGRAPH ASIA 2019のEmerging Technologiesとして採択され,実際に海外にてデモ展示を行い,多くの来場者に体験してもらうことが出来た. 2つめとして,利用可能な対象表面の探索を行った.発泡スチロールは,内部に多くの空気を含むため,音響的には空気に近く柔らかい.一方,人が触察する際に潰れない程度に硬い.このような「柔らかくて硬い」素材が他に無いか探索した.結果として,いくつかの素材では摩擦が低減する結果は得られたが,発泡スチロールほどの強い効果が出るものは見つけられなかった. 3つめとして,この結果を受け,音響的なメタマテリアルとして,発泡スチロールのような音響特性を持った表面を作ることを検討した.具体的には,ヘルムホルツ共鳴を利用し,特定サイズの空洞アレイ表面において,超音波のエネルギーが振動の形で吸収されることを確認した.このとき摩擦が低減するかについては次年度以降の検討事項となっている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の大きな成果は,プロジェクションされた映像とインタラクション可能な触覚ディスプレイシステムを実現した点である.対象表面が発泡スチロールに限られるという制約はあるものの,遠隔からの刺激におけるメリットである「広い面積に自由に触感を生成できる」という部分を検証するのに十分なプロトタイプを実現することが出来た.また,発泡スチロールを利用することから,ディスポーザブルな触覚ディスプレイが実現できるという,新しい価値も提案できた.本システムを発表した当時は,ディスポーザブルであることのメリットは余り大きくないかと思っていたが,昨今のコロナウイルス関係の状況から,対象表面を入れ替えることが出来るというのは,一つ重要な特長であると考えられる. また,このシステムを作ったことで,超音波を照射し続けたときに指と発泡スチロール表面との間に熱が発生することが確認された.サーモカメラによる計測により,安全な範囲で利用できることなども確認できており,超音波による遠隔摩擦制御の基礎検討事項は概ね確認でき,論文準備中である. 対象表面が発泡スチロールに限られるという制約は大きいため,可能であれば多様な素材で利用できることが望ましい.その目的で,いくつかの素材について,利用可能性の検討を行ったが,適した素材を見つけることは出来なかった.その意味では,研究の広がりはやや狭まったと言える. それを受け,表面に波長以下程度の構造を設けることで機能をもたせる,音響的なメタマテリアルによる実現を検討した.ヘルムホルツ共鳴器アレイにより,印加された超音波が吸収され,意図通りの挙動を示すことが確認できた.ただしこの構造の場合,表面での音圧は最小となり,粒子速度が最大となる形の共振を生じる.実際にこの音響メタマテリアル表面で,知覚される摩擦が低減するかどうかは,来年度以降の研究により明らかにする予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は主に以下の3点を考えている. 1)3次元形状への展開:昨年までは2次元平面上での触感変化を実現している.一方で,本手法は対象表面が適切な音響インピーダンスを持っていれば,任意の形状について適用可能な方法である.3次元形状の表面に触感を生成するのは,一般的な触覚ディスプレイでは難しく,本手法の利点が最も生きる事例であると考えている. 2)音響メタマテリアルによる機能性表面の実現とその応用:本年度検討したように,音響メタマテリアルにより発泡スチロールと同様の音響特性を持った硬い表面を実現できるのではないかと期待している.本年度試作したサンプルについて,人がどう感じるか?あるいは摩擦変化が生じないのか?を被験者実験等を通じで解明する.一方,ある特定の周波数の超音波を吸収する壁,というのは本提案でターゲットとする触覚以外の応用もあると考えられる.触覚ディスプレイに固執せず,柔軟にその応用先を検討していく. 3)摩擦増加型の触覚ディスプレイの検討:本提案でこれまで取り組んできたのは,対象の摩擦を減少させる触覚ディスプレイである.一方,一般的に摩擦変化型の触覚ディスプレイには,摩擦を増加させる手法もある.これまでの原理とは異なり,遠隔超音波により対象表面の摩擦を増加させるタイプの触覚ディスプレイも実現できるのではないかと考えている.本年度はその可能性も検討する.
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