2019 Fiscal Year Annual Research Report
微細構造化高硬度接点による革新的アークレスハイブリッドしゃ断技術
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18H01420
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
安岡 康一 東京工業大学, 工学院, 教授 (00272675)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 電気接点 / 溶融ブリッジ / アーク / 高融点材料 / 可変抵抗 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の背景には,太陽光,風力,蓄電池などの分散エネルギー源を導入して直流マイクログリッドを構成し,省エネルギー化を実現する潮流がある。分散エネルギーの連携を図るためには電流しゃ断技術が必須であるが,直流は電流ゼロ点が無いため交流と比較して電流しゃ断が本質的に困難である。種々の直流遮断技術のうち現在の研究の主流は,複数の遮断機構を組み合わせたハイブリッドスイッチである。本研究の目的は,機械接点と半導体を組み合わせたハイブリッドスイッチにおいて,機械接点の開極時にアークを発生させない革新的なハイブリッド直流しゃ断技術を確立することである。これが実現すると直流遮断に伴うハイブリッドスイッチの寿命問題が解決され,同時にサージ電圧の発生を抑制し,かつ小型化を実現することができる。 初年度は接点間アークを抑止する手法として,接点材料に高融点金属であるタングステンを使用し,アーク発生限界の接点電圧を2Vまで高く保った。この結果,世界で初めて200Aまでのアークレス遮断を実現した。ただしタングステンは接点抵抗が高く,通常時の接点抵抗は銅接点の数倍以上という課題があった。2年目はこの課題を克服するため,接点表面粗さと抵抗値との関係を調査し,同時に開極時に接点間に生成される溶融ブリッジの安定化に取り組んだ。表面粗さを抑え,さらに1mm厚のタングステン接点に銅基材をロウ付けしたタングステンクラッド銅接点を開発し,接点抵抗を銅接点の約2倍の0.3mΩまで低下させ,またアークレス電流の限界値を400Aまで増加させることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究2年目は接点抵抗に及ぼす接点条件を実験的に調査した。接点抵抗は接点圧力を20Nから70Nに増加させるとともに減少し,また通電電流を100Aから400Aに増加させるとともに低下した。接点電流が300A以上の場合には,接点圧力を増加させることによる接点抵抗の減少は小さくなった。また接点抵抗は表面粗さの増加とともに増加するが,通電電流値が増加するほど低下した。表面粗さを0.5umまで平滑化すると,通電電流による差はほとんどなくなった。400A通電の条件で,銅基材にタングステン接点をロウ付け(以後,タングステンクラッド銅接点と呼ぶ)した場合の接点抵抗は0.31mΩまで低下し,銅接点の0.16mΩに対して約2倍の値に近づいた。ちなみに本研究で使用したSiC-MOSFETは,オン抵抗が極めて低く,4mΩ弱である。一方,アークレス電流の限界値は溶融ブリッジの安定性に制限され,接点表面温度を低下させることが重要であることがわかった。タングステンクラッド銅接点は接点温度を下げる目的で開発され,タングステン厚さや銅基材の直径や長さを最適化した。この結果アークレス電流は400Aまで増加したが500Aではアークが発生した。またタングステン接点を多極化して電流を分散化し,接点温度を下げて溶融ブリッジの安定化を図る方法を検討した。この方法はシミュレーションでは有効性が確認されたが,実験では接点閉極時に複数接点の圧力を均一に確保することが困難であった。以上からアークレス限界値を500A以上に増加させることは,これまでの取り組みを超える新たな技術の導入が必要であることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
アークレス転流を実現する要点は,接点電圧を上昇させて機械接点から半導体パワーデバイスへの転流を促進することである。ただし接点電圧は大気圧では,アークが発生する12V未満に抑える必要がある。タングステン接点では,タングステン表面が溶融して沸騰に至る電圧の2Vに制限される。このためタングステンに替えてカーボン材料の使用を検討した。カーボン材料は抵抗器にも使われているように混合物で抵抗値を変化することができ,転流時の接点電圧を2V以上12V以下に制御できる可能性がある。ただし通常通電時の接点抵抗は銅電極程度に低い必要があるため,通常は銅接点間を通電し,開極時は銅接点からカーボン接点に通電点を移動する新機構が必要であると考える。この場合の技術課題は,通電点を移動する機構の開発,最適な抵抗値の変化速度の確認,遮断速度の評価等をシミュレーションを併用して実験的に確認,などである。今後はこの可変抵抗型の接点を使用して,アークレス限界電流を400A以上に増加させる。
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Research Products
(9 results)