2018 Fiscal Year Annual Research Report
第一原理モデルとデータ駆動型モデルの融合による遺伝子回路のロバスト動態予測
Project/Area Number |
18H01464
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
堀 豊 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (10778591)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 制御工学 / 生体分子システム / マイクロ流路 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,生体分子を材料とする人工的な分子反応システムのダイナミクスを,数理モデルに基づいて解析および設計するための数理的な枠組みとそのために必要なマイクロ流体実験系の構築を目標とする.特に,既知の反応経路に対してボトムアップで作成する第一原理モデルを,実験データから帰納的なアプローチで作成する数理モデル(機械学習モデル)で補完することで,第一原理モデルでは捉えきれない温度等の「反応場」の影響を考慮したモデル化を行い,方程式ベースの厳密なシステム解析・設計法を利用して,人工分子反応システムの動特性を理論解析的に明らかにするためのツールを構築する.さらに,モデルの学習・同定のために必要なデータを取得するための実験系を構築する. この目的の達成に向けて,本年度は,まず,質量作用の法則に基づく第一原理モデルとそれを補完する反応場のモデルのフィードバック系をモデル化し,閉ループシステムの過渡応答を解析および設計するための代数的な計算法を検討した.具体的には,ガウス過程状態空間モデルと呼ばれるデータ駆動型の数理モデルを用いて反応場をモデル化し,数値シミュレーションにより生成した擬似的なデータを用いてモデルの超パラメタの学習を行った.その後,フィードバック系の過渡出力を信頼区間付きで計算し,出力値を機会制約とする最適化問題を解いて反応系を設計する方法を構築した.検証用の数値例題を用いて提案法の評価を行い,今後の改善点を明らかにした. さらに,モデルの学習・同定のためのデータ生成用の実験系の構築を行った.具体的には,空間連続的に変化する温度場にマイクロ液滴を多数配置して反応温度を制御しながら生体分子反応系のダイナミクスを観察する実験系を完成させた.この系を用いることで,分子反応システムの温度依存的なダイナミクスを短時間で大量に取得し,モデルの学習・同定に活用できるようになる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は,当初の予定通り,第一原理モデルとそれを補完する反応場のモデルを構築し,それらの相互作用をフィードバック系としてモデル化した.また,機械制約計画法を用いて閉ループ系の過渡応答を信頼区間付きで設計する方法を構築し.数値例題を利用して提案アルゴリズムの課題を洗い出すところまでを完了した.さらに,研究の過程で,当初の計画とは異なるアプローチで反応場の不確かさをモデル化する方法を着想し,分子反応システムの不確かさをモーメント方程式を用いて解析するためのアプローチを提案した. 実験系の構築に関しては,異なる反応温度場に対する生体分子反応系の応答を大量に並列して計測するための実験系を予定よりも早期に完成させることができた.その結果,小規模の分子反応システム(当初の計画とはやや異なる分子反応システムではあるが検証実証に利用可能な系)を用いて温度依存的なダイナミクスの計測を行うことができ,来年度以降に予定していた実験系の動作検証を年度内にほぼ完了することができた,また,成果の一部を外部発表することができた.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度定式化した閉ループ系のモデルおよび過渡応答設計法は,モデルの表現力や計算量の点で実用面での課題があるため,今後はガウス過程状態空間モデル以外のデータ駆動型モデルを同様のアプローチで定式化,解析する方法も検討する.また,新たに構築したモーメント方程式に基づく生体分子回路の解析・設計法は,より大規模で実用的な反応システムに応用できるように計算量の削減方法等を検討し,分子回路システムのロバスト設計論として発展させる予定である. これらの理論研究と並行して,今後は,反応温度場を制御する実験系を利用して分子反応システムの温度依存的なダイナミクスの計測を行い,モデルの学習・同定に利用する.そのために,まずは,今年度作成した小規模の反応システムに反応要素を追加し,数理モデルによる最適化が必要となる複雑な人工分子反応システム(概念実証用の系)を設計する予定である.
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Research Products
(8 results)