2019 Fiscal Year Annual Research Report
Fe3O4/絶縁体の界面精密制御によるトンネル磁気抵抗素子の高機能化
Project/Area Number |
18H01465
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
長浜 太郎 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (20357651)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡林 潤 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (70361508)
本多 周太 関西大学, システム理工学部, 准教授 (00402553)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | スピントロニクス / トンネル磁気抵抗効果 / マグネタイト |
Outline of Annual Research Achievements |
Fe3O4は第一原理計算からはハーフメタルであると予想され大きなTMRを示すことが期待されているが、現在その能力が発揮されているとは言い難い。本研究はFe3O4を電極とする強磁性トンネル接合(MTJ)を作製し、そのトンネル磁気抵抗効果(TMR)を調べ、より大きなTMR比を実現することを目的とする。 2019年度は、Fe3O4ーMTJの作製と詳細な特性評価を行った。Fe3O4を4x10^-4Paの酸素分圧下で反応性MBEにより作製し、さらに室温でMgO,Feを蒸着して全エピタキシャルMTJを作製した。TMR効果を測定したところ室温で-10%程度のTMRが観測された。さらに温度を低減するとTMR効果は増大し、80Kで-55.8%のTMR効果を観測した。これは、通常の正のTMR素子で用いられているTMRの定義(いわゆるインフレ定義)に換算すると-120%に相当するMR比であり、これまでのFe3O4-MTJのTMRを大きく塗り替えることが出来た。さらにFe3O4製膜時の酸素分圧を10^-5Pa台に低下すると、TMR効果は125Kで極大を示し、更に低温にすると減少した。これはFe3O4の相転移であるVerwey転移(転移温度120K付近)に関係していると考えられる。 このFe3O4の酸素分圧依存性を調べるため、異なる酸素分圧で作製したFe3O4単層膜のXASおよびXMCDの測定を行った。測定はKEK-PFのBL7で行ったが、スペクトルに大きな変化は見られなかった。また、Fe3O4のバリアとの界面における電子状態、磁気状態を調べるために、1ユニットセルのCoFe2O4を界面および界面下数ナノメートルの位置に挿入した薄膜を作製し、CoのXAS/XMCD測定を行った。Coのスペクトルは得られたがSN比が不十分であり、Co量を増加する必要があることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
MTJの作成とTMRの観測に関しては、負のMRが得られたこと、低温において-60%近いTMR(インフレ定義で120%)という、Fe3O4-MTJの先行研究と比較して非常に大きい抵抗変化が得られたことは、重要な進捗である。また、TMRの温度依存性がFe3O4製膜時の酸素分圧に強く依存することは大変興味深い発見であった。これはVerwey転移とTMR効果の関連を示唆しており、Fe3O4-MTJの伝導メカニズムを解明するうえで重要な手がかりとなりえる結果である。一方でXAS/XMCDにおいて酸素分圧に依存した違いが見られないことは、非常に微妙な電子状態の変化がTMRに多きな影響を及ぼしていることを示しており、今後の詳細な調査が必要である。またFe3O4の界面付近の局所的な電子状態を捉えるために微量のCoを挿入する試みを行ったが、十分な信号が得られなかったため、来年度の課題とする。以上より今年度はTMRについては順調であったが、XMCDについてはやや遅れていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
TMRに関しては、より詳細な温度依存性や酸素分圧依存性を調べ、Verwey転移との関連を明らかにする。またFe3O4の電子状態の第一原理計算をおこない、そのトンネリングがコヒーレントトンネリングである可能性があるのか議論する。さらに、保磁力の増大による反平行磁化配列の増大とそれに伴うTMR効果の増大を目指す。XMCDについてはCo量を増加した試料を作製し、局所的な電子状態に関する知見を得たい。
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Research Products
(10 results)