2019 Fiscal Year Annual Research Report
Creation of new optical function by a control of band orbital hybridization in semiconducting silicides
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18H01477
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
寺井 慶和 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (90360049)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | シリサイド半導体 / バンド軌道制御 / 光学機能の創出 |
Outline of Annual Research Achievements |
シリサイド半導体β-FeSi2の伝導帯下端と価電子帯上端はFeの3d軌道成分が支配的であり、この3d軌道バンドに起因してβ-FeSi2は特徴ある光学機能を発現する。しかし、3d電子の軌道は異方性が大きいため、電子・正孔の局在性が強くなる。また、選択則から3d-3d準位間の遷移は禁制遷移であるため、伝導帯(3d)-価電子帯(3d)間の光学遷移確率(振動子強度)が極めて小さくなるデメリットがある。β-FeSi2のデバイス特性を改善するには、3d軌道バンドの特徴(利点)を失わず、このデメリットを抑制または解消する新たな学術研究が必要不可欠である。そこで本研究課題では、8族元素であるFeの一部を同族元素のRuで置換したβ-(Fe1-xRux)Si2に着目した。β-FeSi2とRu2Si3の混晶半導体であるβ-(Fe1-xRux)Si2の価電子帯では、Si 2p軌道とFe 3d軌道が混成したpd混成軌道バンドが形成され、その軌道混成度はRu組成により制御できると期待される。この価電子帯でのpd混成軌道バンド形成により、β-(Fe1-xRux)Si2では3d軌道バンドの利点が失われず、デメリットである正孔の局在、バンド間禁制遷移が解消できると考えられる。本研究課題では、実際にマグネトロンスパッタリング法によりβ-(Fe1-xRux)Si2薄膜をSi基板上に作製し、電気および光学評価によりpd混成軌道バンド形成の検証を目的としている。これまでに、β-(Fe1-xRux)Si2多結晶薄膜の作製に成功し、pd混成軌道バンド形成の検証を行っている段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は本研究グループで作製実績のなかったRu2Si3薄膜の作製と、その物性評価を行った。その結果、残留電子濃度が1×10^16 cm-3、電子移動度が930 cm^2/Vsの高品質Ru2Si3薄膜の作製に成功した。この残留キャリア濃度は、従来報告値より2桁以上低い値であり高移動度を示すことから、この高品質Ru2Si3多結晶薄膜をベースに混晶系であるβ-(Fe1-xRux)Si2薄膜を作製することで新たな研究展開が可能となった。一方、β-(Fe1-xRux)Si2におけるp-d混成軌道の評価は、主に発光特性で行う計画であるが、その前段階としてRu2Si3薄膜とβ-FeSi2薄膜、それぞれの発光特性を詳細に調べる必要があった。そこで2019年度に両者の発光特性評価を行った結果、Ru2Si3では約0.8 eV付近にバンド間遷移による発光をはじめて観測した(学会発表済み)。また、β-FeSi2薄膜の発光強度および発光寿命評価も行い(論文掲載済み)、p-d混成軌道の評価を行う下準備を整えることができた。現在は、混晶系であるβ-(Fe1-xRux)Si2多結晶薄膜を作製し、XRD測定による構造評価、ラマン分光法によるフォノン振動変化の調査とRu, Fe置換サイトの検証、および電気特性評価を行い、目的とする斜方晶のβ-(Fe1-xRux)Si2多結晶薄膜が作製できていることを確認している。以上のように、研究計画を微修正しながら研究が遂行できており、おおむね順調と判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
2018-2019年度の研究成果により、目的とした斜方晶β-(Fe1-xRux)Si2薄膜の作製に成功した。また、Ru2Si3、β-FeSi2薄膜の電気特性および発光特性も明らかとなったため、その物性値からの比較でβ-(Fe1-xRux)Si2おけるpd混成軌道バンドの形成を評価していく。2019年度に作製したβ-(Fe1-xRux)Si2薄膜において、ラマン分光法によるフォノンモードの評価を行った結果、混晶薄膜のフォノンモードがRu2Si3のものにかなり近いことが判明した。本来なら、Ru2Si3とβ-FeSi2の中間に相当するフォノンモードが観測されると期待していたが、構造評価から推定されるRu組成よりも実際のRu組成がかなり高い可能性がある。そのため、電気特性および発光特性もほぼRu2Si3のものと一致しており、β-(Fe1-xRux)Si2混晶系特有の結果が明確に観測できなかったと考えられる。そこで、今後は低Ru組成β-(Fe1-xRux)Si2薄膜の作製を目指し、低Ru組成領域で添加量を変化させた混晶膜の作製に取り組む。昨年度作製したβ-(Fe1-xRux)Si2薄膜のRu組成は50%程度と見積もられるため、今年度は5-30%領域での試料を作製する。現時点で約30%程度の混晶膜の作製を確認できており、Ru濃度を変化させる成長技術は構築できている。さらに低Ru濃度のβ-(Fe1-xRux)Si2薄膜を数種類作製した後、ラマンスペクトル測定、電気特性、光学特性を評価していく計画である。また、変調分光法によるバンド構造評価技術も構築段階であり、発光特性だけでなく、変調光反射率スペクトルの解析も用いてpd混成軌道バンドの形成を検証する。特に、Ru組成に依存してpd混成軌道バンドのp軌道寄与度が変化するかを検証し、その最適化を行う。
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Research Products
(14 results)