2019 Fiscal Year Annual Research Report
高架橋から構成される広域道路ネットワークの超大規模地震応答シミュレーションの構築
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18H01521
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
野中 哲也 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20772122)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 大規模シミュレーション / 地震応答解析 / 道路ネットワーク / スーパーコンピュータ / PCクラスタ / 並列計算アルゴリズム / 長大橋 / 大規模モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の地震において,設計上の想定を超える事象が発生したことから,想定を超える地震動が作用した場合に,対象構造物がどのような挙動を示すか予め予測することが必要になり,終局状態まで表現できる精緻な解析モデルが重要になってきた.また,地震防災,減災対策を検討する上で,設計実務で用いられている橋梁単位の地震応答解析ではなく,広範囲の地震応答シミュレーションを行い,広域道路ネットワークとしての評価が注目されている.以上の観点から,今後は解析モデルの精緻化と広域化の方向に進むと予想されるが,同時にこの2つの方向に進めようとすると計算量が膨大になる.そこで,本研究では,スーパーコンピュータを含めた高性能コンピュータ上にて,高精度な高架橋モデルから構成される広域道路ネットワークの大規模地震応答シミュレーション(同時に2つの方向に進めたモデル)を構築することを研究の目的とした. 初年度(2018年度)の研究実績として,PCクラスタ(複数台のPC等をネットワークで接続してひとつのコンピュータに見立てて利用する並列コンピュータ)を本研究室内に構築した上で,本研究で使用する解析ソフトウェアに対して,地震応答解析に関する新たな並列計算アルゴリズムを開発して本解析ソフトウェアに組み込んだこと,および本研究の対象とする高架橋を含む橋梁モデルを活用してシェルモデルを効率よく作成できるシェル変換プログラム(変換ツール)を開発したことが挙げられる.2019年度では,新たな並列計算法および本変換ツールによって,名古屋高速広域道路ネットワークの大規模モデルの構築および地震応答解析を実施することができた.また,その並列計算法および本変換ツールを用いれば,高架橋以外の橋梁に対しても全てシェルモデルで構築して解析できることが確認でき,本研究成果の適用範囲が高架橋モデルだけでなく,他の橋梁の大規模モデルへ拡大するといえる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
広域道路ネットワークとしての評価が可能な地震応答シミュレーションを構築することが本研究の目的である.全体をシェル要素でモデル化するため,モデル規模が膨大になり通常のコンピュータ上で動作する解析ソフトウェアでは処理ができない.そこで,次のような研究開発を予定通り行ってきた. (1)並列コンピュータ環境の構築および解析ソフトウェアの高速化:本研究で使用する解析ソフトウェアに対して,並列計算に関する研究開発を行うために,本研究室内にPCクラスタを新たに構築した.大規模計算にはDDM(Domain Decomposition Method)を使用することがあるが,従来のDDMではサブドメイン数が膨大になるとインターフェース方程式を解く段階で性能が落ちる欠点を,本研究では,モデル化も含めてDDMの改良を実施した. (2)超大規模モデルの作成方法の確立:本研究の対象とする高架橋等の橋梁は,全て本研究で使用する構造解析ソフトウェアのはり要素(ファイバーモデル)でモデル化されている.そのモデルを活用して,シェルモデルを効率よく作成する方法を確立して,ファイバーモデルの断面情報等を基に,シェルモデルへの変換プログラム(変換ツール)を作成した.これにより,超大規模モデルが効率よく構築することできるようになった. (3)実際の高架橋モデルの構築:名古屋高速道路の実際の高架橋に対して,本変換ツールを活用して,約38kmにもおよぶ超大規模モデルを構築して,スーパーコンピュータ「京」で解析を実施した.そのモデルは,広域道路ネットワークとして評価できるモデルとなっている. (4)他の橋梁への展開:高架橋以外で特殊橋梁である鋼アーチ橋に対して,本変換ツールによって大規模モデルを構築して,改良したDDMによるPushover解析を試験的に実施した.その結果,鋼アーチ橋に対しても十分に有効であることが確認できた.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに,PCクラスタ上にて新たなDDMを研究開発し,また,ファイバーモデルからシェルモデルへの変換プログラムも開発できたので,本年度(最終年度)では,広域道路ネットワークの地震応答シミュレーションを実務レベルに普及させることと同時に,長大橋の超大規模モデルへの適用も試みることにする.具体的には,次のような研究開発を実施する. (1)広域道路ネットワークのモデル化および解析法の実務への展開:名古屋高速道路に対して,研究開発してきた広域道路ネットワークのモデルの構築方法および解析方法を他の高速道路への適用を行い,実務的に有効であることを証明する. (2)解析ソフトウェアの高速化および長大橋の超大規模モデルへの挑戦:本解析は,DDMにより行い,昨年度までスーパーコンピュータ「京」上で高速化を行ってきた.その「京」が昨年撤去されたため,本年度は初代の地球シミュレータから性能向上がはかられた新地球シミュレータを使用する.なお,新地球シミュレータの使用においては,課題申請が採択され使用許可を得ている.このコンピュータは並列計算のスーパーコンピュータで,ひとつの計算ノード上でベクトル計算が行える.すなわち,ベクトル計算と並列計算の両方を使うことになり,これまでにない高速演算が期待できる.よって,本年度では,実際の長大橋に対して,全てシェル要素でモデル化した約1億要素の超大規模モデルの弾塑性有限変位解析の実施に挑戦する.また,高速演算の研究開発だけでなく,計算精度の向上も行うために,初期たわみおよび初期不整まで考慮できるように本変換プログラムを改造する.さらに,超大規模モデルに対して解析を実施すると,大量の解析結果が出力され市販の構造解析プログラムでは直接表示できないため,新たに膨大な解析結果の後処理プログラムを開発し,効率よく解析結果の整理や動画作成が行えるようにする.
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