2019 Fiscal Year Annual Research Report
磁場中共鳴非弾性X線散乱測定によるハーフメタル型ホイスラー合金の電子状態
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18H01690
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
梅津 理恵 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (60422086)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ハーフメタル型強磁性体 / スピントロニクス / 電子状態 / 共鳴非弾性X線散乱 / 異方性磁気抵抗 |
Outline of Annual Research Achievements |
共鳴非弾性X線散乱(RIXS)は、入射X線を吸収して内殻電子が共鳴的に励起され、X線を放射しつつ緩和する現象であり、入射エネルギーを選ぶことによって特定の元素の電子を励起させることができ、フェルミ面近傍の部分状態密度を反映するようなスペクトルが得られる。さらには、強磁性体では電子状態が交換分裂をしているため、入射X線を円偏光させた場合、電子の遷移確率がアップ・ダウンスピンバンドとで異なり、それぞれのスペクトル強度において差分が生じる。よって、ハーフメタルであれば、フェルミ面直上の非占有状態から占有状態、そして終状態への緩和において、片側のバンドからだけに寄るスペクトルが得られることになる。 本年度は、前年度の研究にて得られていた、Co2MnSiのCoとMnのL端におけるRIXSスペクトルについて理論計算を行い、得られた実験結果と比較検討を行った。それにより、Mn2VAlではアップスピンバンドにギャップが存在していたのに対し、Co2MnSiではダウンスピンバンドにギャップが存在するが、その違いをRIXSの磁気円二色性(MCD)スペクトルの解析より、分別出来ることが明らかになった。また、CoよりもMnのギャップ幅が広いことも検出でき、3d電子軌道の占有・非占有状態における様々な情報が引き出されることが分かった。 さらに、本年度はCo2FeSi単結晶試料のFeのL端におけるRIXS-MCDのスペクトルを実験で得ることが出来た。弾性散乱のMCDピークのごく近傍に特徴的なスペクトルが観測され、フェルミ面近傍に存在する大きなFeの3dバンドに由来することが理論計算との比較により明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、ハーフメタル型の電子状態を有すると理論的に予測されている、ホイスラー型合金(Mn2VAl, Co2MnSiやCo2FeSi)の単結晶試料を育成し、その試料の原子配列を完全に制御した上で、磁場中共鳴非弾性X線散乱(RIXS)の円偏光依存性(MCD)よりフェルミ面近傍のスピン偏極電子状態を調べ、ハーフメタル型電子状態の直接観測を行うことを目的としている。2019年度は、2018年度に行ったCo2MnSiのRIXSスペクトルの詳細な解析を行い、理論スペクトルと比較検討を行う事で、占有・非占有状態の3d電子状態に関する様々は情報が得られ、国内の学会で発表を行った。特に、2p内殻の各順位からの励起に寄るRIXS-MCD理論スペクトルをもとに、ハーフメタル性の特徴となるフェルミ面近傍のギャップがアップ・ダウンスピンバンドのどちらに形成されるかを分別できるのは、全く新しい展開であり、論文執筆の準備を進めている。また、Co2FeSiのFeのL端におけるRIXS-MCDの実験も成功し、理論スペクトルとの比較検討を行った。フェルミ面にかかる大きな3d軌道由来のスペクトルの特徴が見事に反映されており、この成果も国内の学会にて発表を行った。以上のように、RIXSに関する実験は当初の予定以上に進んでいる状況である。しかしながら、磁気抵抗の角度依存性の符号とハーフメタル性を照らし合わせて議論を行う研究は、装置の不具合によりあまり進んでいなかったが、装置が復調したことによりデータが得られつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度が本研究課題の最終年度となるが、引き続き共鳴非弾性X線散乱測定の実験を進めていくことを計画している。本年度は既にビームタイムが確保されており、Co2FeSiについてFeのL端のRIXS測定を行う予定である。これで、Mn2VAl, Co2MnSi, Co2FeSiのデータが一通り揃うことになるが、ホイスラー合金のハーフメタル型電子状態の研究にRIXSが非常に有効であることを世界に発信するためにも、ビームタイムの申請を毎度行い、関連研究を続けていくことが重要である。単結晶は他にもCo2(Cr,Fe)Ga, Mn2CoGa, Co2MnGe, Co2MnGaが既に育成に成功していることから、タイムが確保され次第、順次測定を進めていく。 磁気抵抗の角度依存性を調べる実験は装置の不具合で滞っていたが、装置が復調したことで、今後手元の単結晶試料について一挙に実験に取り掛かる予定である。系統的研究を行い、ハーフメタル性の結晶方位依存性に関する議論が大幅に進展するものと期待される。
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Research Products
(23 results)
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[Journal Article] Half-metallicity of the ferrimagnet Mn2VAl revealed by resonant inelastic soft x-ray scattering in a magnetic field2019
Author(s)
R.Y. Umetsu, H. Fujiwara, K. Nagai, Y. Nakatani, M. Kawada, A. Sekiyama, F. Kuroda, H. Fujii, T. Oguchi, Y. Harada, J. Miyawaki, and S. Suga
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Journal Title
Phys. Rev. B
Volume: 99
Pages: 134414
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] 磁場中共鳴非弾性X 線散乱によるホイスラー合金Co2FeSi のスピン偏極電子構造2020
Author(s)
西本幸平, 藤原秀紀, 有長祐人, 山神光平, 山添康介, 宮脇淳, 原田慈久, 黒田文彬, 小口多美夫, 木須孝幸, 関山明, 菅滋正, 梅津理恵
Organizer
第33回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウム
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[Presentation] 直線偏光制御硬X線光電子分光によるハーフメタル型ホイスラー合金Mn2VAlの価電子帯電子構造研究2020
Author(s)
西本幸平, 藤原秀紀, 濱本諭, 有長祐人, 姫野良介, 近藤佑宥, 木須孝幸, 中川広野, 山崎篤志, 中田惟奈, 今田真, 東谷篤志, 玉作賢治, 矢橋牧名, 石川哲也, 菅滋正, 梅津理恵, 関山明
Organizer
日本物理学会 第75回年次大会(2020年)
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[Presentation] Resonant inelastic soft x-ray scattering under magnetic field for Mn2VAl Heusler alloy2019
Author(s)
R.Y. Umetsu, H. Fujiwara, F. Kuroda, H. Fujii, T. Oguchi, A. Sekiyama, J. Miyawaki, Y. Harada and S. Suga
Organizer
64th Annual Conference on Magnetism and Magnetic Materials, Las Vegas, Nevada, USA
Int'l Joint Research
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[Presentation] Magnetic properties of the L21-ordered phase in Co-based Heusler alloys Co2TiGa and Co2TiSn2019
Author(s)
I. Shigeta, H. Fundo, R. Ooka, R.Y. Umetsu, Y. Miura, A. Nomura, K. Yubuta, T. Yamauchi, T. Kanomata, and M. Hiroi
Organizer
Joint 5th Int’l Symposium on Frontiers in Materials Science & 3rd Int’l Symposium on Nano-materials, Technology and Applications (FMS - NANOMATA 2019), Da Nang, Vietnam
Int'l Joint Research
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