2019 Fiscal Year Annual Research Report
One-dimensional metallic state of dislocations in topological insulators
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18H01692
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
枝川 圭一 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (20223654)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | トポロジカル絶縁体 / Bi-Sb / 転位 / 電気伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続いて、Bi-Sb系とPb-(Bi,Sb)-Te系のトポロジカル絶縁体(TI)について研究を進めた。Bi-Sb系については昨年度までに転位伝導の直接計測が可能なμmサイズの試料を用いた電気伝導測定に成功した。本年度は転位密度の異なる試料を切り出して電気伝導測定を行い、低温域の伝導度が転位密度に依存することを明らかにした。Landauer-Buttikerの式を用いて解析を行ったところ、そのような電気伝導度の転位密度依存性が転位伝導に起因することが明らかとなった。 Pb-(Bi,Sb)-Te系については、昨年度に引き続き、Se添加によるバルク絶縁性の向上をめざした。この系では、すでに我々の研究により2Kで180mΩcm程度のバルク絶縁性が得られているが、さらに高いバルク絶縁性の試料が得られれば、転位伝導をより明確に示すことができるはずである。また、従来のTIの表面伝導の研究においても、高いバルク絶縁性の試料が不可欠である。今までに十分なバルク絶縁性を示す試料は、Bi-Sb-Te系、Bi-Sb-Te-Se系など少数に限られており、新たにPb-(Bi,Sb)-Te系で高いバルク絶縁性を示す試料が得られればTIの研究分野で一つのブレークスルーとなり得る。本年度は、Sb量、Se量を変えた試料を多数作製し、電気伝導測定を行った。幾つかの試料で電気抵抗率の温度依存性が負の傾きをもった絶縁性が観測されたが、Se未添加における抵抗率の最高値を超えるものは今のところ得られていない。 Pb-(Bi,Sb)-Te系については、薄片状試料を用いた表面伝導の研究も進めた。2Kで180mΩcm程度の絶縁性を示す試料をスコッチテープ法で薄片化し、電気伝導度の温度依存性と磁気抵抗を測定した。表面2次元電子の弱反局在、およびShuvnikov-de Haas振動が観測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は当初、Bi-Sb系について、i)単結晶作製、ii)塑性変形による転位の導入、iii)電子顕微鏡(TEM)を用いた転位の型および転位組織の評価、iv)電気伝導度測定、v)走査トンネル分光(STS)実験、vi)熱電物性測定と熱電性能指数の評価、の6つを順番に行う計画であった。昨年度と本年度の研究でi)からiv)までの実験がほぼ終了し、成果を挙げることができた。i)については、融液からの単結晶成長時に、狙った組成において固相-液相共存域に温度を固定することにより、ほぼ単一組成の大きな単結晶を作製することに成功した。本系のTIは電気伝導性が組成によって敏感に変わるため、単一組成試料の作製に成功したことは本研究の遂行上重要な意味をもつ。ii)とiii)についてはBi-Sb系において容易すべり系である(111)すべりと2次すべり系の(110)すべりの2種類のすべりを起こさせるように圧縮方位を選んだ。前者で導入される転位のバーガースベクトルbは、[111]と垂直であるため、理論的上の転位の伝導条件b・M=odd(M=[111])を満たさない。これに対して(110)すべりではb=[100]の転位の導入が期待され、これは転位の伝導条件を満たす。各試料で、意図した転位が導入されていることをTEM観察により確認した。iv)については、FIBを使ってμmサイズの試料を切り出し、電気伝導測定を行った。未変形の試料についても同様な測定を行った。(111)すべりの試料の電気抵抗率の温度依存性は、未変形試料の測定結果と概ね一致した。これに対し、(110)すべりの試料では低温域で電気伝導率が顕著に低下した。またLandauer-Buttikerの式を用いて伝導率の定量評価を行った。その結果、TI中転位が1次元金属状態を形成するとの理論予測に対する実験的な証拠が得られ、本研究の目的がほぼ達成された。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」の冒頭に記した当初計画のうちのv)、vi)を今後推進する。v)については、Bi-Sb系とPb-(Bi,Sb)-Te系の試料について当研究室所有のSTM装置を用いて実験に取り掛かっている。予備実験としてすでに当研究室所有AFM装置を用いて表面観察を行い、成長時に導入された転位の観察に成功している。今後STM観察とSTS実験を進める。まず試料を表面処理用チャンバーに導入してイオンスパッタ+焼鈍により清浄表面を出し、本チャンバーに導入後STM観察により転位位置を特定する。この際、ステップ・テラス構造に注目し、ステップ終端位置に存在する転位を追跡する。続いてSTS実験によりスペクトルを取得し、転位部分の状態密度を解析する。この場合、表面状態と転位状態の切り分けが難しいことが予想され、その点に関連した理論考察もあわせて遂行する。またTEM観察とAFM観察をさらに進めて、転位のバーガースベクトルを決定し、転位が伝導条件を満たすかどうかを明らかにする。 vi)についてはまず、すでに作製したBi-Sbの変形試料について、電気伝導度(σ)、熱伝導(κ)、ゼーベック係数(S)をPPMS装置を用いて温度範囲T=50K~300Kで測定し、熱電性能指数ZT=(σS2/κ)Tを評価する。異なる変形量、すなわち異なる転位密度の試料を準備して同様な測定を行い、転位の効果を明らかにする。ZTが最大になるように条件を最適化する。 結果を日本物理学会、日本金属学会で報告し、投稿論文にまとめる。
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