2019 Fiscal Year Annual Research Report
誘電体における光誘起物性の電子顕微鏡オペランド測定による微視的起源解明
Project/Area Number |
18H01710
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
佐藤 幸生 九州大学, 工学研究院, 准教授 (80581991)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森分 博紀 一般財団法人ファインセラミックスセンター, その他部局等, 主席研究員 (40450853)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 誘電体 / その場観察 / 電子顕微鏡 / ドメイン / 格子定数 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主要な研究として、代表的な強誘電体であるチタン酸バリウム(BaTiO3)について電場を印加した状態での原子分解能走査透過型電子顕微鏡(STEM)観察を行い、格子定数の変化を原子分解能で直接測定した。通常のバルク体の性質からは予想されない巨大な格子定数の変化が観測された。成果は論文として公表され(Sato et al., Phys. Status Solidi, Rapid Research Letters, 14, 1900488, 2020)た。その成果の学術的なレベルの高さが認められ、同論文はPhys. Status Solidi, Rapid Research Letters誌2020年1月号のFront Coverに選ばれた。 また,上記成果に係る研究の途中過程において、原子分解能STEM像のひずみを補正する新手法「2段階アフィン変換法」を開発した(in Supporting Information, Sato et al., Phys. Status Solidi, Rapid Research Letters, 14, 1900488, 2020)。同手法を用いると従来は1~2%の誤差が含まれていた格子定数の確度が大きく改善される。本手法についての深化を継続的に進めており、STEM観察時における重要な実験パラメータの1つであるスキャン回転角度がSTEM像の歪みに大きく影響を与えていることを明らかにした(Fujinaka et al., J. Mater. Sci., accepted)。これは格子定数の正確測定時はスキャン回転角度を固定した方が良いという重要な知見を与えている。さらに、直行方向にスキャンした像を平均化処理する際に「2段階アフィン変換法」を組み合わせて、像質の大きな改善と高確度格子定数測定を両立する新手法の開発も進んでいる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度はBaTiO3の電場印加原子分解能STEM観察を行った結果、巨大な格子歪みが原子分解能で直接観測された。これは、従来の知見では予測されない新奇現象で当初の計画以上の成果であった。本成果の学術的なレベルの高さは本成果に係る論文がPhys. Status Solidi, Rapid Research Letters誌のEditorより高く評価され、同誌2020年1月号のFront Coverに選ばれたことからもわかる。 さらに、上記の成果に係る研究の過程でSTEM像のひずみを補正する新手法である「2段階アフィン変換法」の開発に成功した。原子分解能STEM観察の大きな弱点であった格子定数測定の誤差を大きく改善できるため、今回の研究で対象とするその場観察のみに限定されず、原子分解能STEM観察に広く一般的に適用できる汎用性の高い成果である。これは当初の計画には全く含まれていなかったものである。本手法の適用性をさらに広げる研究をすでに進めており、その第一弾として重要な実験パラメータの1つであるスキャン回転角度が像のひずみに影響を与えることを明らかとしている。今後、更に本手法の適用性を広く検討することで原子分解能STEM観察を結晶構造解析手法の1つとして確立できることが期待され、非常に大きな研究・測定手法の展開が拓ける。 また、電場印加その場観察と本手法を融合した強誘電体解析も進めており、リラクサーと呼ばれる型の強誘電体であるPb(Mg1/3Nb2/3)O3(PMN)において、ナノ構造の電場応答や原子スケールでの極性構造が明らかとなってきた他、圧電単結晶として知られるPMN-PTにおいての原子スケール分極構造の空間分布なども明らかになっており、令和2年度に成果公表予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度までに得られた研究成果をより大きく発展させるため、令和2年度は以下の研究を行う予定である。 ・リラクサー強誘電体PMNおよびモルフォトロピック相境界(MPB)型圧電体PMN-PTにおける極性構造と電場応答 PMNおよびPMN-PTにおける分極構造とその空間分布を原子スケールで解明している他、電場応答も観察されており、これらの成果を論文として公表する。 ・BaTiO3、PMN-PTにおける分極構造の光に対する応答 BaTiO3およびPMN-PTに光を照射した際のドメイン(分域)構造の変化、原子スケールでの極性構造・格子定数の変化などを「光照射その場観察」と「2段階アフィン変換法」の組み合わせで行う。 ・「2段階アフィン変換法」の確立 本年度に開発した同手法の汎用性をさらに高めて,より広く一般に適用できるようにして、原子分解能STEM観察を結晶構造解析の1つとして確立できるようにする。特に,STEM観察における実験条件とSTEM像がもたらす像歪みの関係を定量的に明らかにすることで、同手法における正確格子定数測定の手順を構築する。 ・MPB型圧電体におけるドメイン構造の電場・応力に対する応答 代表的なMPB型圧電体であるPZT(Pb(Zr,Ti)O3)におけるドメイン構造の電場に対する応答、応力に対する応答を電場印加その場電子顕微鏡法で観察し、同材料が示す高い圧電特性の起源を解明する。また、PMN-PTにおいて、交流電場を印加した際のドメイン構造の変化を調べる。同材料は交流電場を加えることで透明な圧電体となることが報告され、交流電場の印加で光学特性も変化している可能性がある。直流電場のポーリングと交流電場のポーリングを行った際の構造変化を比較して差異を検討する。
|