2019 Fiscal Year Annual Research Report
アンペア級電流に対応した3次元印刷配線用導電性ペーストの開発と導電性発現機構
Project/Area Number |
18H01723
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
福本 信次 大阪大学, 工学研究科, 教授 (60275310)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤本 公三 大阪大学, 工学研究科, 教授 (70135664)
松嶋 道也 大阪大学, 工学研究科, 助教 (90403154)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 通電 / ジュール発熱 / 界面抵抗 / 導電性ペースト |
Outline of Annual Research Achievements |
多品種少量生産が求められる近年,アディティブマニュファクチャリング(付加造形法)技術はものづくりの分野において非常に重要な役割を担うようになった.本研究では銀ペーストを導電相に用いた3次元配線技術を想定している.昨年度,導電性ペーストは加熱前は導電性を有せず,加熱中に導電性を発現し,電気抵抗が変化することを報告した.ペーストの導電性は銀粒子同士の界面に存在する物質に大きく支配される.本年度は銀粒子を被覆する高級脂肪酸の種類とペーストの導電性の関係について調べた.また従来,導電性ペーストは小電流を想定しているためアンペア級通電に対する信頼性が明らかになっていない.そこでジュール発熱にともなうペーストの伸びを曲げ試験によって模擬し,配線としての導電性ペーストの信頼性を評価した. ペーストの電気抵抗に対する銀粒子の保護被膜の影響を調べるために,オレイン酸,ラウリン酸,デカン酸およびヘキサン酸でそれぞれ被覆した銀粒子を用いたペーストの電気抵抗を測定した.おおむね分子量が小さい脂肪酸で被覆した銀粒子を含有したペーストは低温で導電性を発現し,最終的に得られる電気抵抗が小さい傾向を示した.また脂肪酸被覆銀箔表面の通電性が加熱とともに変化することを電流モードの走査プローブ顕微鏡で明らかにした.これはペースト内の銀粒子界面に極薄く存在する脂肪酸の変化がペーストの電気抵抗を支配していること示している. キュア後のペースト配線の電気抵抗は曲げひずみの増加とともに緩やかに増加し,臨界ひずみ(導電性に対する破断ひずみ)に達すると導電性を消失した.その後除荷すると導電性は復元した.しかしながら,その後の曲げ負荷においては,1回目よりも小さいひずみで導電性が消失した.また破断ひずみよりも小さなひずみであれば,繰り返し負荷に対してペーストの電気的信頼性が低下しないことを示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
銀ペーストの電気抵抗を支配する大きな因子として凝集防止剤として用いられている高級脂肪酸の種類に着眼し,異なる種類の脂肪酸で被覆された銀粒子を含有するペーストの電気的特性の加熱キュア中の変化をその場測定した.また加熱キュア中の導電性発現挙動を明らかにするため,脂肪酸で被覆された銀表面の通電特性を走査プローブ顕微鏡を用いて評価した.さらにキュア後のペースト配線のアンペア級通電に対する信頼性を評価するに先立ち,通電によってペーストに生じるひずみを曲げ試験によって模擬し,その電気的信頼性を評価した.以下に詳細を記す. 【導電性を支配している因子の解明】 銀ペーストの電気抵抗はキュア過程中におおよそ3段階で減少し,各段階における抵抗変化の大きさは銀粒子を保護する脂肪酸の種類に依存した.熱分解温度が高い脂肪酸で被覆された銀粒子で構成されたペーストほどキュア過程中の導電性発現に高温,長時間が必要であった.オレイン酸被覆によって銀箔表面に絶縁性が生じること,また加熱することで徐々にその絶縁性が消失することが明らかになった.キュア過程中のペーストの電気抵抗変化は銀表面を被覆している脂肪酸の相変態挙動が支配因子であることが示唆された. 【アンペア級通電に対するペーストの電気的信頼性】 キュア後のペースト配線の電気抵抗はひずみの増加とともに徐々に増加し,ひずみが臨界値に達すると導電性は消失した.導電性消失後,徐荷することで導電性は復元した.臨界ひずみ以下での繰り返し曲げ試験においては,ペーストの電気的特性は低下しないことがわかった. 導電性発現プロセスおよび曲げ試験に対する信頼性はおおむね順調に進んでいる.加熱によって銀粒子表面から消失した脂肪酸の相変態挙動およびアンペア級通電に対するペーストの電気的信頼性に関しては来年度に研究予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は異なる高級脂肪酸で被覆された銀粒子で構成するペーストを用いることで,加熱キュア過程における電気抵抗変化の支配因子がペースト内の銀粒子間の接触界面抵抗であることを部分的に解明した.また通電によって生じると考えられるペーストの伸びを曲げ試験によって模擬し,電気的信頼性について調べた.次年度はキュア後のペースト配線のアンペア級通電に対する電気的特性について評価する必要がある.アンペア級の通電はジュール発熱を引き起こし,ペーストの温度が上昇する.温度上昇はペーストの電気抵抗を支配している銀粒子間の接触抵抗の変化を助長することが予想される.界面の接触抵抗は熱ひずみみによって生じる銀粒子間の距離および銀粒子間に存在する物質(おもに保護膜である高級脂肪酸)の相変態に支配される.そこで銀粒子間に存在する脂肪酸の熱分解挙動を明らかにするとともに,通電時のペーストの温度と電気抵抗の変化をその場測定し,電気的信頼性に優れた導電性銀ペーストの設計指針を示すことを目的とする.具体的な方針を以下に示す. 【銀粒子間の相変態】 キュア後のペーストの電気抵抗は,加熱過程において銀粒子表面を保護していた脂肪酸の残留量に依存する.加熱による銀粒子からの脂肪酸の脱離現象を熱重量・示唆熱測定ならびにガスクロマトグラフィー質量分析法によって明らかにする.測定対象は脂肪酸被覆銀粒子単体,キュア前後のペーストとする. 【アンペア級通電試験に対する電気的特性】 キュア後のペースト配線に対して数アンペアの通電試験を行い,通電中のペーストの電気抵抗変化をその場測定する.また通電中のペースト近傍の温度測定を行う.通電による温度上昇とひずみの電気抵抗変化に対する影響を切り分けるために,室温において静的曲げ試験を行う.繰り返し曲げ試験,高温保持試験および恒温高湿試験によってペーストの電気的信頼性を評価する.
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Research Products
(2 results)