2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18H01743
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
千星 聡 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (00364026)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 銅合金 / 熱処理 / 析出 / 加工プロセス / 強度 / 導電性 / 透過型電子顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
スマートフォンやモバイバル機器など小型電子機器用の通電接点部材には高強度-高導電性の銅合金の開発が求められている.当研究グループでは,時効硬化型Cu-Ti合金において過度に時効した試料(過時効材)を伸線加工した線材では,強度と導電率の双方で従来のピーク時効-伸線加工Cu-Ti合金線材の特性を上回ることを見出した.これは,過時効処理に伴い発達するセル状Cu/Cu4Ti積層組織を活用したものである. 上記の研究成果を踏まえて,2018年度~2019年度では,過時効処理-強加工(伸線加工)プロセスにともなうCu-Ti合金の組織変化と特性向上の機構を解明し,従来材の強度-導電性バランスを凌駕する銅合金線材を創製するための幾つかの指針を獲得した.昨2020年度は、Cu-Ti合金に関して獲得した知見をCu-In(Indium)合金、Cu-Ti-Mg(Ni), Cu-Ni-Si合金、Cu-Ni-Al系合金に展開したことが主な成果となる。具体的には,(1)In組成を2.5~10 at.%と変化させた試料を作製し,これの時効析出現象を明確にした。(2) Cu-In合金を過時効することによりセル状組織内の不連続析出物の体積分率や分散状態を制御した合金棒材(直径3.0 mm)を準備した.(3)これを伸線加工プロセスに供し,強度・導電性の変化,および組織形態の変化を系統的かつ定量的に評価した.上記(1)~(3)と同様の実験をCu-Ti-Mg(Ni), Cu-Ni-Al合金においても進めた。 その結果、Cu-In合金やCu-Ti-Mg(Ni)合金では溶体化-過時効で不連続析出物をラメラ状に生成させた場合には、その後の伸線加工により効率的な高強度化-高導電率化が見られた。幾つかの合金で確認された特性変化と組織変化の共通性を精査することにより、特性向上の機構の解明に近づくことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
Cu-In合金、Cu-Ni-Si合金およびCu-Ti合金にMgやNiをマイクロアロイングした合金では、Cu-Ti合金と同様に溶体化-過時効処理によってラメラ状不連続析出物が発達し、これを伸線加工すると、溶体化-伸線加工材よりも高強度-高導電率化することが確認できた。得られた結果から、伸線加工により効果的に高強度化を達成するためには、より緻密なラメラ状組織にすることが共通的な方策になり得るとの知見を獲得できた。以上は、当初の研究計画通りの進捗である。 上記の成果に加えて、Cu-In合金では固溶強化能や加工硬化能に優れ、かつIn固溶による導電率の低下が他の元素と比較して低いことがわかった。つまり、本合金では従来の固溶強化型銅合金線材よりも強度-導電性バランスが優れることがわかった。更に、Cu-In合金は時効処理条件により不連続析出物の析出形態が比較的多様に変化する。つまり、同じ過時効組織でも種々に組織制御ができるため、過時効組織が伸線加工後の線材の特性や組織形成に与える影響を系統的に調べることができると期待できる。この点は予想外の成果であり、今後の研究に活用できるものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,これまで蓄積してきた過時効処理-伸線加工プロセスによるCu-Ti合金線材の高強度化-高導電率化に関する知見を展開して,(1) Cu-In合金など他の合金系へ過時効処理-伸線加工プロセスを適用すること、(2)過時効処理-強圧延プロセスによるCu-Ti合金の「薄板材」の試作を試みること,(3) 上記で得られた知見から合金系、時効組織、および強加工プロセスが及ぼす高強度化-高導電率化への影響を精査し、組織的およびプロセス的な支配因子を明確化すること,(4)以上を通して組織制御および特性発現機構の仮説を考案し,その妥当性を検証することを推し進めていく予定である. 特に本2021年度は(1)(2)に注力したい。(2)に関する具体的な実験計画は下記の通りである. (a)高強度-高導電性が期待できるCu-Ti合金ブロック(厚さ10mm以上)を準備する.ブロック状試料を溶体化後に,等温相変態線図(TTT線図)を参考に過時効し,セル状組織が占有した試料を作製する.ブロック状試料を冷間にて種々の加工率(最小 厚さ φ0.1 mm程度)まで強圧延加工する.(b)過時効-強圧延加工にともなう組織形態の変化を回折法,電子顕微鏡観察法,抽出分離法によりマクロからナノの多角的視点で系統的かつ定 量的に追跡する. (c)時効および伸線加工した試料を硬さ試験,引張試験,導電率測定に供して,材料の機械的・電気的特性を把握する. (d)上記で得られたデータより強化への因子(分散強化,固溶強化,加工強化,結晶粒微細化強化),導電率への因子(固溶度,析出物の体積分 率,サイズ・形状,分散状態)の寄与を検討する.これまで線材作製で得られた知見とも比較検討する.これらによって,本プロセスによる特性発現機構の究明を目指す.
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Research Products
(14 results)