2018 Fiscal Year Annual Research Report
非極性基の相互作用を利用したセルロース・キチンの触媒的分解
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18H01781
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小林 広和 北海道大学, 触媒科学研究所, 助教 (30545968)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | バイオマス / キチン / キチンオリゴ糖 / N-アセチルグルコサミン / セルロース |
Outline of Annual Research Achievements |
セルロースとキチンは賦存量1位と2位のバイオマスであり、再生可能資源として魅力的である。特に、キチンは分子内に窒素を含有し、含窒素バイオマスの中で最も賦存量が大きいため、効率的な化学変換が可能になれば付加価値の高い含窒素化学品の原料になる。 本年度は特にキチンの解重合に注力し、キチンオリゴ糖の合成を行った。キチンオリゴ糖は植物に対してエリシター活性を持ち、病害抵抗性を高めることができる。これにより、農薬の使用量が減り、さらに食物の生産性が向上すると期待できるため、キチンオリゴ糖の効率的合成を達成できれば食料問題の改善に貢献できる可能性がある。まず、キチンに対して触媒量のリン酸を担持した後、乾式条件で遊星ボールミル処理を行うことにより、キチンは全て水に可溶化し、オリゴ糖が生成した。本オリゴ糖の詳細な分析方法を開発した結果、分岐構造や還元末端の脱水環化体が高い割合で含まれ、キチンオリゴ糖そのものの収率は低く留まっていることが分かった。これは、水がほとんど存在しない条件でミル処理を行うことにより、反応中間体として生成したオキソカルベニウムイオンに対し、水よりも先にユニット内や他のオリゴ糖の6位の水酸基が攻撃してしまうためであると推察された。 そこで、本副反応を抑制するために系中に少量の水を添加するとともにリン酸量の調節を行った。その結果、副反応を抑制でき、かつボールへの粉末固着を起こさない反応条件を見出した。これにより、キチンオリゴ糖を50%以上の収率で合成することができた。 また、キチンの単量体であるN-アセチルグルコサミンの有効利用の取り組みも開始した。本モノマーを水素化することにより、N-アセチルグルコサミニトールとし、これを酸触媒により脱水環化することにより、イソソルビドの類縁体が生成することを確認した。本物質はエンジニアリングプラスチックなどの原料になると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は賦存量が非常に多いセルロースとキチンから化学品を効率的に合成するための触媒反応プロセスを開発することである。そのための方法論として、セルロースやキチンのエクアトリアル面の水酸基とアミド基が作り出す水素結合だけでなく、アキシアル面の非極性基の相互作用も考慮した反応をデザインすることが課題である。本年度はキチンの解重合に特に注力し、キチンオリゴ糖への変換法を検討した。その結果、水を溶媒として用いないことにより、外表面の非極性基にもたらされる疎水性相互作用を発現させず、さらに酸の水和による活性・水素結合能低下を抑制することにより、効率的な解重合が進行することを明らかにした。さらに、反応条件を適切にコントロールすることにより選択的にキチンオリゴ糖を合成することに成功した。 また、計画通り下流側の変換反応の開拓も開始し、キチンのモノマーであるN-アセチルグルコサミンから水素化と脱水を経由して扱いやすい縮環化合物が生成することを明らかにした。 従って、研究はおおむね順調に進行していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究により、キチンに酸を含浸した状態で遊星ボールミル処理を行うと、条件の適切化によりキチンオリゴ糖を収率良く合成できることが分かった。しかし、酸とボールミル処理がどのように相乗的に機能して加水分解が進行するのかその機構は不明である。そこで、本年度はこの反応機構の解明に取り組む。具体的には、ボールがキチンに対して衝突する際の速度を算出する。次に、この衝突によりキチンに対して加わる力とそれにより生じる変形の大きさをシミュレーションにより決定する。キチンに対してボールが衝突するとキチンは衝突方向には圧縮する力が加わり、その垂直方向には張力がかかる。グリコシド結合の切断という観点からは張力の方が重要であると推測されるので、キチン分子を引き伸ばすのに必要な力の大きさとエネルギー、それによってもたらされる化学的な変化を量子計算により明らかにする。物理的に加わる力とこの計算結果を照らし合わせるとともに酸の有無でどのように結果が変わるのか調べることにより、反応機構を推定する。この知見をフィードバックし、さらに効率的なキチンオリゴ糖の合成法の開発を目指す。 また、キチンのモノマーから生成しうることが分かった脱水環化体に関し、酸触媒のスクリーニングや反応条件の最適化により収率の極大化を目指す。さらに、反応機構を生成物選択性、コントロール実験、DFT計算によって解明する。また、生成した環化体の化学的性質を調べ、どのような応用が可能か検討する。
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Research Products
(10 results)