2019 Fiscal Year Annual Research Report
Novel magnetic circular dichroism in chemically-modified plasmonic nanostructures
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18H01808
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
八尾 浩史 三重大学, 工学研究科, 教授 (20261282)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 磁気円色性(MCD) / マグネトプラズモン / 金属ナノ構造体 / プラズモニック半導体 / ヘテロダイマー / 磁気光学 / 化学合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究代表者は、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を発現する金属ナノ粒子が微分型の大きな磁気円二色性(MCD)応答を示し、それが自由電子のローレンツ力に起因して生成するマグネトプラズモン由来である事を明らかにした。本研究課題では、その様なマグネトプラズモンが関わるナノ構造体と光(円偏光)及び磁場とのより広範な相互作用を誘起するために「ナノ構造体近傍の化学的環境を精密に制御」して、新規なMCD応答やその増強・変調を目指す事、またその応答発現のメカニズムを明らかにする事を目的と定めて研究を遂行している。本年度は、LSPRを発現するとの報告がある欠損型半導体化合物や、極めて大きなMCD応答を示す磁性半導体化合物のナノ構造体作製、およびその分光特性、磁気円二色性の研究を中心に行った。LSPR発現が示唆される半導体としては、欠損型の酸化物や硫化物が報告され、安価である点や触媒的利用価値の観点から貴金属の代替となりうるプラズモニック物質としての期待が大きい。本研究では主に、酸素欠損モリブデン酸化物(MoO3-x)のナノ構造体をハイドロサーマル法によって作製し、シートやドット状のナノ構造体の作製に成功、その磁気光学応答を詳しく調べた所、これまでLSPRと断言されてきた光応答がスモールポーラロン的な挙動をする事、また、その磁気円二色性が微分型となる事をはじめて見出した。本研究は現在、酸素欠損タングステン酸化物へと展開するに至っている。一方、磁性半導体が関わった展開としては、Au-鉄酸化物ヘテロダイマー型ナノ構造体の作製に取り組み、その磁気光学効果を評価した。鉄酸化物はマグネタイトFe3O4とマグヘマイトFe2O3両相から形成され、厳密にはFe3O4-xと表される事、この構造体のMCD応答では、Auが示すLSPRのマグネトプラズモンが磁気遮へいされて弱められる事を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究代表者が本学に赴任して丸3年、更に本研究課題に取り組んで2年が経過し、研究環境や学生の指導・研究体制もようやく整ってきた。本課題に関連するプラズモニックナノ構造体の作製及びその評価については、AuやAgを中心とする貴金属ベースの単純な球形粒子だけが関わる段階はほぼ終わり、様々な形状・異方性を持つナノ構造体、単一相ではなく複数の物質が近接したナノ構造体の構築、更にはAuやAg金属以外の半導体化合物が関わるナノ構造体の作製とそのMCD評価へと研究は向かいつつある。これらのナノ構造体の作製は様々な工夫が必要であり決して容易ではないが、現在の所、学生達は熱心に研究に取り組んでくれた事もあり、興味深い研究成果が得られつつある状況と思われ、概ね順調に進展していると考えている。例えば、表面プラズモン(LSPR)特性を発現する半導体として、遷移金属酸化物が近年注目を集め、その代表的な物質に酸素欠損型モリブデン酸化物(MoO3-x)が挙げられるが、その発現機構については統一的見解がなく、本研究代表者も、通常の貴金属ナノ構造が発現するLSPR特性との違いを明らかにする研究に取り組んだ。その結果、確かに近赤外領域にLSPRらしき応答が観測される事が分かったが、それには、モリブデン酸化物の結晶性が大きく関わる事、更には、その応答がLSPRではなくスモールポーラロン的挙動を示す事が明らかとなった。MCDを詳細に検討した結果、そのポーラロンには複数の励起状態が絡んだB項としての性質が分かった点は興味深い。また、貴金属Auナノ構造と磁性半導体とのへテロ構造作製にも取り組み、Auが発現するLSPR特性が磁性半導体の磁気光学応答にどの様な影響を与えるのかを検討した所、予想に反してプラズモン効果が磁性物質によって磁気遮へいされている結果を得た。これについては更に詳細に検討を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題に関わるこれまでの研究成果を踏まえ、次年度以降は以下の様な研究を展開する予定である。まず、金属ナノ構造体の形状変調に関わる研究を行う。特に形状クオリティとMCD特性との関連性を詳しく検討したいと考えている。これまで、銀ナノ10面体に関してはそのLSPR特性とナノ構造体の形状クオリティ、特に不純物としての球状ナノ粒子の存在の有無や、不完全な10面体粒子の有無について、通常の紫外可視吸収スペクトルでは到底判別できないものでもMCDではそのスペクトルの複雑性から相当に判定できる事を明らかにした。今後、特に応用的観点から重要と思われる銀あるいは金のナノバイピラミッドに関して、詳しく検討していく予定である。ナノバイピラミッドは作製の手順が比較的シンプルであるものの、作製されたものにはやはり不純物としての球状ナノ粒子やアスペクト比が著しく異なる粒子が混合する傾向にある。従って、種々のアスペクト比を持つAuまたはAgナノバイピラミッドを作製し、形状と通常の分光特性、更には磁気円二色性の評価を行い、その特徴を見出す研究を行う。一方、様々な特徴を有するプラズモニック酸化物半導体のナノ構造体も積極的に研究を推し進める。一例としてMoと同族の酸素欠損型半導体WO3-xについて、その作製と綿密なMCD評価を行う予定である。この半導体に対しても近赤外領域におけるLSPR発現が期待されているが、その観測エネルギー位置は報告によって様々であり、本研究代表者がこれまで展開してきた視点からその発現メカニズムを明らかにする必要があると考えている。特に、ナノ構造体の形状や結晶性は重要な観点であり、不明な点を解明していきたい。尚、令和2年度も数名の4年生が大学院修士課程に進学することが決まり、研究の分断が生じる心配は回避された点も我々にとっては重要であり、今後も滞りなく本研究に邁進する所存である。
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