2020 Fiscal Year Annual Research Report
Novel magnetic circular dichroism in chemically-modified plasmonic nanostructures
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18H01808
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
八尾 浩史 三重大学, 工学研究科, 教授 (20261282)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 磁気光学応答 / 金属ナノ構造体 / 局在表面プラズモン / マグネトプラズモン / ナノヘテロダイマー / 磁気円二色性 / プラズモニクス / 半導体ナノ構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の端緒は、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を発現する金属ナノ粒子、特にAgナノ粒子が極めて大きな微分型の磁気円二色性(MCD)応答を示し、それが自由電子のローレンツ力に起因して生成するマグネトプラズモン由来である事を明らかにした実験にある。その様なマグネトプラズモンが関わる金属ナノ構造体と光(円偏光)、更には磁場とのより広範な相互作用を誘起するために「ナノ構造体近傍の化学的環境を精密に制御」して、新規なMCD応答やその増強・変調を目指す事、またその応答発現のメカニズムを明らかにする事、その現象を金属以外の物質系に応用できるかを検討し、プラズモニクスの発展に資する事を目的と定めて研究を遂行している。 本年度はまず、昨年度に研究を開始した欠損型半導体化合物の対象を広げてタングステン酸化物(WO3-x)ナノ構造体の作製とその磁気円二色性の特徴を詳細に研究した。その結果、ロッドないしはワイヤー上のWO3-xナノ構造体の作製に成功すると共に、先般のモリブデン酸化物で観測されたポーラロン様の信号とは異なり、LSPR由来の極めて大きなMCD応答を観測することができた。このMCD応答の大きさは、これまで最大と思われたAgナノ粒子の信号強度とほぼ同程度であり、近赤外領域では初めての現象であった。ナノ構造体のLSPRはその大きさや形状を変化させることでコントロールすることが可能であるが、MCDからの観点においては、安価である物質系の一つとして、貴金属の代替となりうる近赤外プラズモニック物質を見出すことができた意義は大きい。一方、金属系においてはAg-Auコアシェル型のナノ粒子を作製し、そのMCD応答を研究した。その結果、単体金属ナノ粒子の時とは異なったMCD応答強度のLSPR吸収線幅依存性が見られ、コアシェル構造の境界に存在する自由電子の散乱が影響している事を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
科研費補助の下で本研究課題に取り組んで3年目に当たる2020年度は、新型コロナの影響について触れない訳にはいかない。研究環境や学生の指導体制などもほぼ整った矢先の新型コロナ感染拡大であり、春から夏にかけては修士課程の学生達の登学も禁止され、本年度の前半は殆ど研究の遂行がストップした。研究室内のゼミなどはリモートで行ったが、手を動かしての実験については秋以降から漸く始まり、苦戦した状況であった。様々な学会も中止であったり突然にリモート開催となったりして、その対応にも苦慮した。しかしながらその様な状況下においても、学生達の努力もあって新しい研究成果も出た。例えば、タングステン酸化物ナノロッドやナノワイヤの作製に成功すると共に、その大きな磁気光学応答の発見、また、金属が関わるナノ構造体については、Ag-Auコアシェルナノ粒子の磁気光学応答測定、Auと半導体の硫化銅のコアシェルナノ粒子の極性反転型磁気光学応答の観測、更には、CoとAuのナノヘテロダイマー構造体に関わる研究も行ってきた。これらナノ構造体は通常の単一物質より成るものではないため、その作製には工夫も必要であり時間を要したが、概ね興味深い研究結果を得ることができた。タングステン酸化物ナノ構造については、卓越したプラズモニック貴金属であるAgの磁気光学応答に匹敵する程の大きな応答を示した点は極めて意義深い。硫化銅については自由ホール型のプラズモン応答であることがMCD解析によって明らかにされ点も世界初の事である。また、Co-Auヘテロダイマーについては、まだ完全な同定には至っていないものの、昨年度のマグネタイト-金ヘテロダイマー同様、その磁気光学応答にAuのLSPRは殆ど関わらず、磁気遮へい的な要素が強いことが明らかになりつつある。以上の状況を総括的に判断し、現在までの研究進捗状況としては、概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、本研究課題に関わる科研費補助期間の最終年度であり、様々な研究成果を集約して今後の研究へと展開していく素地を作る重要な年度であると考えている。これまで概ね順調に進捗してきた事もあり、研究の方向性はまだまだ未知である非金属系のプラズモニックナノ構造体の磁気光学応答研究へと向かいつつある。しかしながら金属ナノ構造体に関しても、高次のプラズモン発現に関わる磁気光学関連の研究は殆ど分かっておらず、継続して研究する意義も充分にある。従って、本課題に関わるこれまでの研究成果を踏まえ、今後の方針としては以下の様な研究を展開する予定である。 まず、金属ナノ構造体においては、高次の表面プラズモン共鳴が発現する系として、サイズが相応に大きな金属ナノ粒子、特に80 nmを超えるAg系を精密に作製して磁気光学応答を研究する。何故なら、AgはLSPR発現領域にバンド間遷移などのダンピングを誘起する要因はなく、従って、大きな磁気光学応答発現を示す重要な材料である事が明らかになってきたが、一方、そのサイズが80 nm程度を超えると通常のLSPRとは異なった高次のLSPRが鋭く発現し、その意味からも研究価値が極めて高い。また、本年はより一層、半導体系プラズモニック材料に注目したい。半導体は、いわゆるキャリアドープによってLSPRが発現し、ドープキャリアのコントロールによってそのエネルギーを変化させる事ができる点、また、発現波長が可視領域から近赤外、更には赤外へと広がる点が重要である。残念ながら現装置では赤外領域のMCD応答を調べる事はできないが、そのきっかけとなる研究へと展開したい。尚、本年も現状においては新型コロナが収束どころか変異株による拡大の兆しすら見えており、研究推進に対する不安要素は尽きないが、感染予防対策もこれまでその効果を発している点などから考えて、研究を滞らせず進めていきたい。
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Research Products
(11 results)