2019 Fiscal Year Annual Research Report
Low-temperature van der Waals epitaxy using high vapor pressure sources
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18H01822
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
上野 啓司 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40223482)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 層状物質 / ファンデルワールス・エピタキシー / 遷移金属ダイカルコゲナイド / エピタキシャル成長 / 原子層堆積法 / 液体前駆体 / 二硫化タングステン / 二硫化モリブデン |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)高蒸気圧液体前駆体原料を利用する分子線エピタキシー装置を用いて,遷移金属ダイカルコゲナイド薄膜の低温エピタキシャル成長(ファンデルワールス・エピタキシー)実験を進めた結果,雲母(合成雲母,白雲母)の劈開基板上において,450℃程度の基板温度で二硫化タングステン薄膜の低温エピタキシャル成長が実現することが確認された。 (2)(1)とは別の装置で行った二硫化タングステン薄膜の原子層堆積実験において,基板表面の一部に前もって蒸着した微小な金属薄膜が,触媒的な効果をもたらして前駆体の分解・反応を促進し,その結果として,成長する薄膜の結晶性や組成を良好に保ったまま,薄膜成長温度を更に低くできることが判明した。これまでに基板温度350℃での結晶性薄膜成長に成功している。この触媒効果は,金やタングステン薄膜では顕著に現れるが,アルミニウム薄膜ではほとんど効果が得られないことが示されている。 (3)他の層状遷移金属ダイカルコゲナイドとして,二硫化モリブデン薄膜の原子層堆積実験を行った。タングステン前駆体と同じ配位子による6配位構造を持つ液体モリブデン前駆体を用いた実験では,二硫化タングステンの場合よりも低い基板温度で結晶性二硫化モリブデン薄膜が得られることが判明した。また,配位子が異なる4配位モリブデン前駆体を用いた場合には,さらに低い温度での結晶性二硫化モリブデン薄膜の成長が確認された。 (4)第一原理計算を行う計算サーバーを立ち上げ,遷移金属ダイカルコゲナイト薄膜への欠陥,不純物導入による電子帯構造の変化について,理論計算による確認を行った。 (5)β相二テルル化モリブデンについて,単結晶成長条件の最適化を更に進め,成長温度と添加するハロゲン輸送剤の調整により,より大きな単結晶を成長することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)高蒸気圧前駆体原料を利用する低温でのファンデルワールス・エピタキシーについては,これまでに水素終端Si基板,雲母基板上で実現しており,成長温度を更に低くすることを目指している。他の基板については,異種遷移金属ダイカルコゲナイド劈開面上への成長について,実験を開始している。ダングリングボンド終端単結晶基板の利用については,水素終端Si基板以外は未実験であるが,今年度中に試行する予定である。この課題項目についてはほぼ順調に進行しているといえる。 (2)これまでの原子層堆積法による二硫化タングステン成膜実験において,微小な金属薄膜によって成膜温度を100℃近く低下できることを発見している。これは研究開始前には予想していなかった成果であり,低温成長を目指す上では当初計画以上の成果である。現在,金属種による効果の違いについて検証を進めており,より低温での良質な薄膜成長の実現を目指している。 (3)これまで行ってきた二硫化タングステン薄膜成長に加えて,二硫化モリブデン薄膜成長の実験も開始している。タングステン前駆体と同じ配位子を持つ6配位モリブデン前駆体を用いた場合には,より低い温度でも良質な成膜が実現することを見出している。さらに,別の配位子を持つ4配位モリブデン前駆体を用いた場合には,6配位前駆体よりも更に低い温度で成膜が実現している。これも研究計画時点では予想していなかった成果といえる。 (4)薄膜物性や成長過程探究のための第一原理計算にも着手し,計算ソフトウェアの使用法にも習熟しつつある。この点でも順調に研究が進展しているといえる。 (5)β相二テルル化モリブデンは,成長条件の改良により,さらに大きな単結晶を得ることに成功している。放射光施設での分光実験を行う共同研究は,新型コロナウイルス流行の影響で先が見通せないが,再開されればより良い試料を提供できる状態である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)高蒸気圧前駆体原料を利用する分子線エピタキシー装置を用いた,遷移金属ダイカルコゲナイド薄膜の低温エピタキシャル成長実験をさらに進める。これまでに水素終端Si(111)基盤や雲母劈開面基板上での低温エピタキシャル成長が確認されているが,他の基板においても詳細な検討を進める。成膜した試料については,反射高速電子線回折によるその場観察や,X線回折,各種顕微鏡,X線光電子分光,顕微ラマン分光,温度可変ホール効果測定,導電率測定等による構造/物性評価を行い,その結果をフィードバックすることにより,より低温での最適成膜条件を探索する。 (2)これまでの原子層堆積成膜実験から,基板表面の一部に前もって蒸着した金属薄膜が触媒的な効果をもたらして前駆体の分解を促進し,薄膜の結晶性や組成を良好に保ったまま,薄膜成長温度を更に低下できることが判明している。今後は前もって蒸着する金属薄膜の種類をさまざまに変え,その効果の検証と,より低温での成膜実現を試みる。 (3)二硫化モリブデン薄膜の原子層堆積については,前駆体の種類による成長温度の違いについて検証を進め,どこまで成長温度を下げられるかについて検討する。またニオブ前駆体を用いた二硫化ニオブ薄膜の原子層堆積成長も試みる。 (4)原子層堆積成膜における前駆体分解反応の探究や,薄膜への欠陥,不純物導入による電子帯構造の変化を調べることを目的として,前年度に立ち上げた計算サーバーを用いた第一原理計算を進める。 (5)低温成膜した二硫化タングステン,二硫化モリブデン薄膜を用いて,電界効果トランジスタやガスセンサーといった素子の構築を試みる。また硫化物薄膜表面に存在する硫黄欠陥を修復するための溶液処理法の開発を行う。β相二テルル化モリブデンについては,より結晶性の高い大面積平坦表面を得るための単結晶成長技術開発に努める。
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