2019 Fiscal Year Annual Research Report
ワイドバンド・ナローバンド共存電子系の精密制御による新規高温超伝導体の設計と実証
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18H01860
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
黒木 和彦 大阪大学, 理学研究科, 教授 (10242091)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
永崎 洋 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 首席研究員 (20242018)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 超伝導 / バンド構造 / スピン揺らぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
[理論] (1) ナローバンドがフェルミ準位近傍にあるincipient band状態にあるとき、ゼロ・エネルギー近傍のスピン揺らぎが抑制され、有限エネルギーのスピン揺らぎが増強されることによって、超伝導が著しく増強されることを示した。 (2) 2本鎖梯子型銅酸化物において電子をドープしたときに、ナローバンドをincipientな状態にして超伝導に有利にするためには、直観的には、横木方向に一軸圧力を加えることがよさそうに思える。我々はこれを理論的に調べ、直観に反して、梯子の脚方向に圧力をかけることによって、電子の横木方向のホッピングが増し、超伝導を増強し得ることを示した。 [実験] (1)層状Mo酸化物の超伝導探索:Sr3Mo2O7-δの中性子線回折により、結晶構造の精密解析を行った。特に、酸素量の見積もりを行った結果、同物質には酸素欠損がほとんど存在しないことを見いだした。これにより、超伝導が出現していない理由が、酸素欠損によるものではないことが示された。 (2)新規銅酸化物、ニッケル酸化物の物質合成と超伝導探索:米国スタンフォード大学で発見された新超伝導体(Nd,Sr)NiO2の多結晶試料を、高圧合成法とトポケミカル反応を組み合わせて作成した。超伝導が出現すると報告されている試料の合成には成功を収めたものの、現時点で超伝導は出現していない。また、中国IOPによるBa2CuO3+dの発見を受け、従来にない長いCuOボンド長を有する銅酸化物高温超伝導体の物質開発を行った結果、2枚のCuO2面間にSr層が挟まれた構造ユニットが合成可能であることを見いだし、一連の超伝導体Sr3Cu2O4F2(Tc =110K)、TlSr3Cu2O7 (Tc = 75 K)、(C1-xBx)Sr3Cu2O7 (Tc = 80 K)、(Hg,Re)Sr3Cu2O7 (Tc = 110 K)を発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論研究においては、ナローバンドがincipient bandになるときに、超伝導が著しく増強される理由が明確になったことは大きな進歩である。これまでの理解では有限エネルギーにスピン揺らぎのウエイトが移ることが超伝導増強の大きな要因であると考えていたが、ゼロ・エネルギー付近の低エネルギースピン揺らぎが超伝導を抑制する働きを持つことがわかったことは、今後の物質設計における重要な知見といえる。ワイドバンドとincipientなナローバンドの共存系として理論的に物質設計したSr3Mo2O7-δを実際に超伝導化する目標は達成されていないものの、これまで酸素欠損があるために超伝導になっていない可能性を考えてきたのに対して、精密測定することによって、実は酸素欠損はほとんどないことがわかり、超伝導にならない理由が絞り込めたのは前進といえる。さらに、NdNiO2やBa2CuO3+δといった新しい超伝導体が米国や中国で発見されたことに刺激を受け、理論研究、実験研究ともに予測していなかった新しい展開をみた。これらの新展開を軸に、あらたな理論・実験の共同研究の可能性が生まれている。また、これも当初の計画にはなかったが、梯子型銅酸化物において、incipient ナローバンド状態を実現するためには梯子の脚方向に一軸的な圧力をかければよいことが理論的にわかったため、この問題に関する理論と実験の共同研究が始まったことも大きな進展であった。
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Strategy for Future Research Activity |
[理論] この数年、新しいタイプの銅酸化物として、Ba2CuO3+δが注目を集めている。通常の銅酸化物に共通に存在するCuO2面から酸素が大量に欠損しているにもかかわらず、70Kを超える超伝導転移温度が観測されている。我々は最近、この理論研究を進める過程で、異なる軌道成分を持つバンド間でもincipient band状態による超伝導の増強があることを見出しつつある。2020年度は、この理論をさらに発展させるとともに、ここで得た新しい知見をもとに、新奇超伝導体の物質設計を行う。これまで同一軌道成分を持つ多バンド系に焦点をあてていたため、多層系を中心に物質設計を行ってきたが、異なる軌道成分を持つ多バンド系であれば、単層系物質もターゲットとなり得る。 [実験] (1) 梯子型銅酸化物の一軸圧効果:梯子型銅酸化物Sr14-xCaxCu24O41において、一軸加圧下で従来より低圧で超伝導が出現するという結果が得られている。より精密に制御された実験条件下で、その結果を検証する。 (2) Ni、Cu酸化物の開発:ボンド長の大きな銅酸化物超伝導体において、新規構造の創出および化学的圧力効果(軌道純化)の検証を行う。また、Ni1+を母体とするNi酸化物において、薄膜以外での超伝導出現を目指した物質開発を行う。 (3)V、Mo酸化物の単結晶育成:高圧合成法を用い、層状V、Mo酸化物の単結晶育成を行う。得られた試料の異方的電子状態を種々の分光法で評価し、ナローバンドの存在とその寄与について議論する。
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Research Products
(15 results)