2019 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of physical properties of lead-free perovskite semiconductors as high efficiency solar cell materials
Project/Area Number |
18H01888
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
松石 清人 筑波大学, 数理物質系, 教授 (10202318)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ペロブスカイト半導体 / 太陽電池 / 光物性 / 高圧物性 / 構造物性 / 鉛フリー |
Outline of Annual Research Achievements |
Pb系及びSn系ペロブスカイト太陽電池において、平成30年度に共添加エンジニアリングを活用して電力変換効率とデバイス安定性の向上に成功したことを踏まえて、令和元年度には環境と人に優しい新しい添加剤を物質化学的見地から検討した。その結果、Pb系では環境と人に優しい添加剤でも結晶性の向上と粒界サイズの増大並びにデバイス特性の向上を実現できた。 Ge系ペロブスカイト半導体AGeI3(A: CH3NH3(MA) or Cs)において、構造相転移の前後で単結晶X線回折実験を行った。その結果、c軸方向にはGeI6八面体が交互に折れ曲がって配置しており、低温相ではc軸方向に2倍周期となっていることがわかった。粉末X線回折のリートベルト解析では、単調な格子定数の温度変化を示すCsGeI3に対し、MAGeI3ではMA分子の配向性強化による複雑な変化が見られた。分子配向に伴って静電相互作用に偏りが生じ、MAGeI3ではGeI6八面体のGe原子がMA分子の配向方向に大きくシフトし、電子状態はGe-Iの結合長の変化とMA分子の配向によるGeI6八面体のI-Ge-Iの結合角の変化の双方の兼ね合いによって説明できることがわかった。 水熱合成法によってダブルペロブスカイト半導体の単結晶作製を試みた。Cs2AgInCl6では単結晶が得られ、高圧下で興味ある電子状態の変化が観測された。Cs2CuBiCl6では、Cs3Bi2Cl9にCuがドーピングされ、局所的にCs2CuBiCl6の構造を有している可能性が示唆された。Cs2RhInBr6では試料合成に成功できなかった。 光変換量子効率を向上させるために、表面修飾剤の量や種類を変えてCH3NH3PbBr3とCs2AgBiBr6のナノ粒子を作製した。その結果、ペロブスカイトナノ粒子における励起子の閉じ込め状態について新たな知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Sn系ペロブスカイト太陽電池については、共添加エンジニアリングを活用し、実用化レベルに向けたデバイス研究(変換効率の向上と安定性)を推し進めてきた。次のステップとして、環境と人に優しい新しい添加剤の検討を物質化学的見地から進めている。同時に、基礎物性において不明な点が多いので、デバイス特性の向上を視野に入れて、構造物性と光物性の両方から物質科学的理解を進めている。 Ge系ペロブスカイト半導体においては、ペロブスカイト構造特有の格子変形に係わる構造物性とそれに伴う電子格子相互作用に起因した光・電子物性の解明を実験的に推し進めてきた。特に、構造物性においては高温域から低温域までの粉末X線回折並びに単結晶X線回折によって構造解析が順調に進んでおり、それによって光・電子物性の温度依存性の理解が進んだ。構造安定性に及ぼす有機分子の回転・配向状態の影響についても、有機-無機の複合効果の観点から知見が得られてきており、今後予定している中性子回折実験によってさらに解明が進むと期待している。 金属カチオンに3族元素と5族元素を同時に用いたダブルペロブスカイト半導体の単結晶をいくつかの異なる金属カチオンの組み合わせにおいて作製し、物性評価を行ってきた。そのなかには良質の単結晶作製に成功し、高圧物性で興味深い電子状態の変化が観測されたものもあれば、RhIn系のように作製が困難なものや、一方のカチオンが少量しか取り込まれずドーピング元素として働くものもあることが分かった。 一方、基礎物性を第一原理計算からも解明していく計画であったが、第一原理計算を実施することはできなかった。また、有機と無機の複合効果を解明するために、圧力印加による構造並びに電子物性の変化をラマン散乱等の分光学的手法を駆使して詳しく調べていくことも今後必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)高効率の太陽電池材料としての構造物性及び光・電子物性の解明: ペロブスカイト構造特有の格子変形に係わる構造物性とそれに伴う電子格子相互作用に起因した光・電子物性を、単結晶X線回折実験、粉末中性子回折実験、ラマン散乱実験、分光実験等によって多角的に解明していく。具体的には、AGeX3 (A:Cs, CH3NH3、X:Br, I)の高品質単結晶を作製し、構造相転移、それに係る低温から高温までの構造安定性、Aサイトの有機分子の回転・配向状態の効果、フォノン寿命などを明らかにし、それらの知見を基に光・電子物性を議論していく。その上で、結晶安定性と太陽電池の高効率化への材料設計の指針を導き出す。 (2)有機と無機の複合効果の解明: 有機分子と無機八面体の相互作用に着目し、協同的複合効果と量子的複合効果を解明するために、前述のGe系の物性実験に加えて、A2AgInX6(A:Cs, CH3NH3、X:Br, I)へ圧力を印加し、有機部と無機部の相互作用を変化させて、有機分子の隠れた役割について検討する。具体的には、圧力印加による構造相転移、それに伴う電子構造(バンド構造)の変化を詳細に調べる。 (3)鉛フリーの高変換効率太陽電池のための物質探索: 4族元素(Ge, Sn)を用いたペロブスカイト半導体並びに金属カチオンに3族元素と5族元素を用いたダブルペロブスカイト半導体において、単結晶作製とその物性評価、並びに構造及び化学的安定を検証していく。それらの物質において逆型平面p-i-n構造の高品質薄膜太陽電池をco-additive技術などを活用して作製し、さらなる変換効率の向上を目指す(国立研究開発法人物質・材料研究機構太陽光発電材料グループのAshraful Islam 博士と協力)。同時に、光検出素子への応用も見据えてデバイス開発を進める。
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