2018 Fiscal Year Annual Research Report
A spectroscopic study on hemibonds in gas phase clusters
Project/Area Number |
18H01931
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
藤井 朱鳥 東北大学, 理学研究科, 准教授 (50218963)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 半結合 / 2中心3電子結合 / ラジカル / ラジカルカチオン / 赤外分光 / 硫化水素 / プロトン移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は半結合の気相モデル系である硫化水素ラジカルカチオンクラスター(H2S)2+に対する溶媒効果の検証を行った。(H2S)2+に水、メタノール、エタノール各1分子を加え、分子間結合(及びクラスター構造)の変化を赤外分光により調べた。その結果、(H2S)2+中の半結合は水1分子によるミクロ溶媒和に対しては安定であるが、メタノールまたはエタノールによるミクロ溶媒和ではアルコール分子へのプロトン移動が生じ、半結合が切断されることが分かった。これは、生体中の半結合を含む分子過程においてアルコールが強い阻害作用を示すことを示唆している。 更に、メタノールまたはエタノール1分子とH2S1分子とのラジカルカチオンクラスターの構造を赤外分光で探った。特にエタノールの場合、イオン化エネルギーがH2Sとほぼ等しく、また孤立電子対を持つので、アルコールの酸素ーH2Sの硫黄原子間で半結合を作ることが期待されたが、この2例では共に、H2Sからアルコールへとプロトン移動が起き、異原子間の半結合の形成は認められなかった。 また、関連する系として、プロトン付加硫化水素クラスターH+(H2S)2に対しても水、メタノール、エタノール1分子を加えたときの構造変化を赤外分光で検証した。水のプロトン親和力はH2Sのそれよりも低いが、この3分子いずれの付加もプロトン移動を起こし、水またはアルコール分子へとプロトン(電荷)が移動することが分かった。 加えて、硫化水素に関連する系としてチオアルコールのラジカルカチオンクラスター(CH3SH)2+における半結合形成の実証を、海外共同研究者である台湾交通大学の李遠鵬教授の研究グループと共同で行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の当初計画で想定していた5つの実験計測課題のうち、初年度の1年間で2課題の計測をほぼ終えることが出来、これは研究計画通りの進捗状況である。実験で得られた赤外スペクトルの解析も順調に進展している。バンド構造による定性的な解釈と量子化学計算によるシミュレーションが良く一致したので、確度が高く、明瞭な結論が多く得られている。 また、本研究の実験計測で主役となる赤外OPO装置の新規導入も問題なく進み、2018年6月の導入後、使用波長域で均一強度の強力な赤外光が得られ、計測スペクトルの質を各段に上昇させることが出来た。 本課題の成果は既に国際学会にて招待講演として一部が発表され、論文も投稿準備をほぼ終えた段階にある。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は新しい半結合の様式として注目を集めている、硫黄原子とパイ電子軌道との半結合(S-pi半結合)について、そのモデル系と見なせるベンゼン-硫化水素ラジカルカチオンクラスターに赤外分光を適用し、S-pi半結合形成の検証を行う。また、複数の硫化水素分子を系に加えることにより、異なった半結合様式間の競合を観測することを目指す。 また、これまで赤外分光で半結合が実証されている(H2S)2+で電子遷移の観測を行い、気相における半結合電子遷移のベンチマークを確立する。また、置換基の導入やミクロ溶媒和による電子遷移シフトから、半結合強度への置換基及び溶媒和の影響を検証する。更に、種々の密度汎関数によりこの電子遷移を計算し、実用に耐える汎関数の特定を行う。
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