2019 Fiscal Year Annual Research Report
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18H01947
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
数間 恵弥子 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (50633864)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | プラズモン / STM / 単一分子 / 化学反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
金属ナノ構造に光を照射することで励起できる局在表面プラズモンは、物質の光応答を増強する手段として幅広い応用が期待されている。新たな応用としてプラズモン誘起化学反応が近年注目を集めている。既往研究では、分子集団を観測し、プラズモンの局在性の情報が失われ平均化された応答に基づいた議論に止まっており、どのような因子が反応機構、素過程を決定するかは未知の領域で反応機構の詳細な理解は進んでいない。本研究は、プラズモン誘起解離反応の素過程に関わる因子を、光走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いた単一分子の反応の解析により解明する。特に金属との相互作用によって形成される吸着分子の電子状態に着目し、分子の電子状態と反応の素過程との関係を系統的に調べることで、プラズモン誘起化学反応の機構解明、さらにはプラズモンと分子の相互作用に関する基礎的な知見を獲得する。本研究では二原子分子を対象に、反応素過程を系統的に調べ比較することで、プラズモンと分子の相互作用および反応機構を解明する。 2019年度は、銀基板表面上に強く化学吸着した酸素分子におけるプラズモン誘起解離反応の単一分子レベル観測と定量解析を行った。対照実験として、光化学反応の挙動について調べた。また、プラズモンのエネルギーに相当するエネルギー領域の電子およびホール注入による反応挙動を調べ、反応に関わる電子状態に関する情報を取得した。さらに、密度汎関数法に基づき計算した吸着酸素分子の電子状態と実験結果から、反応機構と素過程を解明した。この研究成果を論文にまとめて出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Ag(110)基板表面に吸着した酸素分子のプラズモン誘起解離反応について詳細に検討した。Ag(110)表面上に強く化学吸着した酸素分子は、2つの異なる配向(O2[001],O2[1-10])を持つことが報告されている。これまでに本研究では、金探針と銀基板のナノギャップに光照射し励起できるプラズモンによって、探針直下付近の酸素分子が解離することをSTM観察から見出した。探針直下の分子の反応にともなうトンネル電流の変化を追跡することで、単一分子の反応速度さらには反応効率を算出できる。こうして調べた単一酸素分子の解離効率の波長依存性と、密度汎関数法により計算した吸着酸素分子の電子状態、ならびにSTMアクションスペクトロスコピーによって得られた反応に関わる電子状態分布の解析の結果、金属と強く混成した酸素の反結合性軌道(π*)にプラズモンの緩和過程で生成するホットキャリア(電子およびホール)が移動し解離が起こると結論された。さらに電子状態解析から、吸着酸素分子のπ*軌道はフェルミレベルにまたがって分布しており、ホットホールの占有π*軌道への移動の方が,ホットエレクトロンの非占有π*軌道への移動よりも非常に有利であることが明らかとなった。また、O2[001]分子とO2[1-10]分子では異なる解離効率を示したが,これは2つの吸着種における電子状態の違いを反映した結果であると考えられる。 以上の検討内容は研究計画に沿って行われたものであり、本研究の進捗はおおむね順調である。さらに、本研究成果をまとめた論文がAngewandte Chemie Internatinal Editionに掲載され、Hot paperおよびInside Coverに選ばれ、一定の成果が得られたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では二原子分子を対象に、反応素過程を系統的に調べ比較することで、プラズモンと分子の相互作用および反応機構を解明する。本年度は、CO分子のプラズモン誘起解離反応に挑戦する。CO分子の表面反応(脱離、拡散)は様々な金属基板上で研究されてきた。Cu(110)上ではCO分子は化学吸着し、熱によってCu[110]方向のみに拡散する一方で、405 nmのパルスレーザー照射では基板の励起によって電子が生成し、Cu[110]と[001]の二方向への移動が観察された。さらに、トンネル電子注入では2.4 eV以上で2π*軌道への電子移動による脱離が起こる。これら既報との比較から、プラズモンの緩和過程で生成する電子または熱のいずれが反応に寄与するかを明らかにする。 まず、STM探針と基板の間に光照射によって生成するプラズモンが誘起するCO分子の反応挙動を単一分子レベルで定量的に解析する。単一CO分子の解離効率の波長依存性、および反応速度の光強度依存性を調べ、プラズモンによる反応挙動の詳細を明らかにする。プラズモンによる解離反応の評価の後、対象実験として、光化学反応の挙動について調べる。探針を基板表面から離した状態で光照射し、光照射前後でのSTM像を解析することで、反応の是非を検証する。さらに、プラズモンのエネルギーに相当するエネルギー領域の電子およびホール注入による反応挙動を調べるため、高い電圧領域でのトンネル電流に対する反応挙動を検討する。プラズモン、光、電子、ホールといった異なる励起源による反応挙動の違いを比較することにより、プラズモンが誘起するCO分子の反応の機構と素過程の解明を目指す。
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