2018 Fiscal Year Annual Research Report
Synthesis, Structures, and Properties of Organosilicon Curved sigma-Conjugated Compounds
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18H01960
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
久新 荘一郎 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (40195392)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 有機ケイ素化合物 / 曲面σ共役 / おわん形オリゴシラン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究によって次のような結果が得られた。 1)曲面σ共役系ラジカルイオンの観測:オリゴシランのラジカルアニオンの単離は最近、報告されたが、ラジカルカチオンの単離はこれまで報告されていない。曲面σ共役系ラジカルカチオンの単離の第一歩として、オクタテキシルオクタシラキュバンのラジカルカチオンの生成を検討した。オクタテキシルオクタシラキュバンをトリチルカチオンによって一電子酸化したところ、褐色の固体が得られた。1H NMR、19F NMR、11B NMRから、この化合物には1種類のテキシル基、3種類のフッ素原子、1種類のホウ素原子が含まれており、ラジカルカチオンの可能性がある。この固体の単結晶を作成し、X線結晶構造解析を行いたいと考えている。 2)σ共役系電荷移動錯体の単離:トリス(ヘプタメチル-2-トリシラニル)メチルシランおよび関連化合物とTCNEの電荷移動錯体を生成し、紫外可視吸収スペクトルで電荷移動吸収帯の測定を行った。しかし電荷移動錯体の生成定数は低く、単離は困難と判断された。曲面を拡張してかご形オリゴシランにすると、TCNEがかごの内部に包接されて、生成定数の大きな電荷移動錯体が生成する可能性がある。そこで、かご形オリゴシランMeSi(SiMe2SiMe2SiMe2SiMe2)3SiMeを合成し、その構造決定を行っている。 3)含リン曲面σ共役化合物の合成と電子状態の解明:トリシリルホスフィン類の紫外吸収スペクトルを測定し、理論計算によって吸収帯の解析を行った。最長波長吸収帯はシリル基の枝分かれが多くなるほど長波長にシフトする。この結果はHOMOにおけるリン原子のn軌道とケイ素-炭素(またはケイ素)結合のσ軌道の相互作用が強くなり、LUMOにおける擬π*軌道が拡張するため、HOMO-LUMO間のエネルギー差が小さくなることに対応している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度交付申請書に記載した研究実施計画の概要は次の通りである。 1)曲面σ共役系ラジカルイオンの観測:おわん形オリゴシランのラジカルカチオン、ラジカルアニオンを低温マトリクス中でのγ線照射あるいは塩化アルミニウムやカリウムなどの酸化剤、還元剤によって発生させ、ESRを測定する。これによって理論計算の結果を実験的に証明する。 2)σ共役系電荷移動錯体の単離:おわん形オリゴシランと電子受容体の電荷移動錯体では生成定数が大きくなり、1:1あるいは2:1の包接型電荷移動錯体が単離できる可能性がある。電荷移動錯体の結晶を作製し、X線結晶構造解析によって分子間距離などの構造パラメーターを求める。また、紫外可視吸収スペクトルで電荷移動吸収帯を測定し、濃度変化によって平衡定数や分子間相互作用の強さを解析する。 3)含ホウ素、リン曲面σ共役化合物の合成と電子状態の解明:おわん形オリゴシランの中心ケイ素原子をホウ素原子やリン原子で置換した化合物の紫外吸収スペクトル、サイクリックボルタンメトリーの測定、理論計算を行い、σ共役軌道や擬π*共役軌道の電子の非局在化やエネルギー準位などの電子状態を調べ、リン原子を含まないケイ素類縁体の電子状態と比較する。 以上の研究実施計画のうち、1)については、オクタテキシルオクタシラキュバンのラジカルカチオンと考えられる固体を単離し、精製、結晶化を行っている。2)については、おわん形オリゴシランとTCNEの電荷移動錯体の生成定数が小さいという結果が得られたため、曲面を拡張したかご形オリゴシランの合成を行った。3)については、トリシリルホスフィン類の紫外吸収スペクトルの測定と理論計算によって、リン原子の電子的効果を明らかにすることができた。以上の結果から、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究をさらに進展させるために、今後は次のような研究を行う。 1)曲面σ共役系ラジカルカチオンの単離:おわん形オリゴシランやかご形オリゴシランをトリチルカチオンなどの酸化剤で一電子酸化してラジカルカチオンを発生させる。紫外可視吸収スペクトルやESRを測定し、ラジカルカチオンの電子状態を明らかにする。また、ラジカルカチオンを単離し、X線結晶構造解析によって構造を解析し、中性分子のときに比べてどのような構造的変化が見られるか調べる。 2)σ共役系電荷移動錯体の単離:MeSi(SiMe2SiMe2SiMe2SiMe2)3SiMeおよび関連化合物と電子受容体の電荷移動錯体の結晶を作製し、X線結晶構造解析によって分子間距離などの構造パラメーターを求める。また、紫外可視吸収スペクトルで電荷移動吸収帯を測定し、どのような軌道間の相互作用が働いているか、理論計算の結果と併せて考察する。 3)架橋鎖に塩素が置換したかご形オリゴシランの合成:MeSi(SiMeClSiMeClSiMeClSiMeClSiMeClSiMeCl)3SiMeなどの架橋鎖に塩素原子が置換したかご形オリゴシランはイコサシラドデカヘドランなどの球状オリゴシランのビルディングブロックになると考えられる。このようなビルディングブロックを合成し、分子内Wurtz型カップリングによって球状オリゴシランの合成を行う。
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