2019 Fiscal Year Annual Research Report
Breakthrough in Chiral Photochemistry based on the Excitation of Charge-Transfer Complex
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18H01964
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
森 直 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (70311769)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西嶋 政樹 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (70448017)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 光不斉反応 / 電荷移動錯体 / エキシプレックス / エントロピー制御 / キラリティー / 可視光励起 / キラルルイス酸 / 励起三重項 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、光を用いる合成反応、さらには不斉合成に関する研究が急速に発展しつつある。既存の研究は、合成化学的な観点から、光照射で生成した中間体活性種を別のキラル触媒で不斉変換するという二段階過程で成り立っているものが主流である。一方、本提案「電荷移動錯体の光励起を鍵とする新機軸キラル光化学」では、超分子相互作用、いわゆる弱い相互作用に着目し、これまで軽視されてきたエントロピーの視点で光反応における立体制御を試みることが目的である。とくに、基底状態の軌道間相互作用である電荷移動相互作用、エントロピー的な寄与の大きい溶媒和などの相互作用を活用し、励起状態における反応性を活かしながらキラル情報の伝搬を達成するような新しい反応系を構築したいと考えている。 本年度は、昨年度に引き続き、ナフトキノン誘導体へのアルケンの光環化付加反応を中心とする複数の環化反応を代表的な反応系として選定し、電荷移動錯体の光励起等を基盤とするキラル光反応を合成反応として有用な不斉光反応系へと構築するための方法論の検証を行った。昨年度達成できなかった立体異性体の分離に成功し、ジアステレオ選択性などの詳細を検討することが可能となった。研究成果の詳細は本書後半に示すとおりであるが、主たる成果は国際共同研究としてChemPhotoChem誌に発表され、J. Am. Chem. Soc.誌を含む6報の論文等に公表した。また、国際会議における招待講演などでも精力的な成果公表に努めた。現在企画編集中の励起状態キラリティーに関する書籍も本プロジェクトの完了期限までに完成するめどがついた。以上の状況から、次年度における研究に向けて大いに期待の持てる状況であると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究「荷移動錯体の光励起を鍵とする新機軸キラル光化学」の構築においては、弱い相互作用を活用するこれまでにない立体選択性制御の方法論を実証することが目的である。本年度、昨年度課題となった物性の類似する立体異性体の分離同定に成功し、様々な反応条件下でのジアステレオ選択性の検討が可能となった。ナフトキノン誘導体へのアルケンのジアステレオ選択的光環化付加反応において、溶媒和が立体選択性に重要な寄与を示すことを明らかとし、高い立体選択性(最大89%de)で環化生成物が得られることを見出した。また、条件によっては、逆の立体選択性を有する生成物を優先されることも可能となった。 本成果の初期的成果は国際共同研究としてChemPhotoChem誌に掲載されたが、その他関連成果がJ. Am. Chem. Soc.誌を含む計6報の論文として成果発表し、当初予想をはるかに上回る成果となった。また、昨年度を含む一連の成果は、光化学誌の解説記事にも掲載された。このような状況から、本研究は(1)の当初計画以上に進展している。と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
電子供与体と受容体は、基底状態において弱い相互作用を有するため、電荷移動錯体を生成することが知られている。この錯体は、主として可視光領域に電荷移動吸収帯を生じ、その波長選択的な光励起が可能である。励起された錯体は、励起電荷移動錯体となるが、これまでの研究において、この励起種が通常のエキシプレックスとは異なる励起種であり、特異な光反応性を示すことが明らかとなっている。これまで、種々の一重項励起状態経由のジアステレオ選択的な反応の立体選択性の差異を検討したところ、電荷移動錯体の光励起において、エキシプレックス経由の反応とは立体選択性が大きく異なることなどが見出されている。 本研究では、超分子相互作用、いわゆる弱い相互作用を活用する新たな光反応制御の方法論を提唱し、実証することを目的としている。具体的には、反応のエンタルピーに加え、系のエントロピーによる新たな反応制御を実証することが主要な目的である。本年度は、励起三重項状態の関与するキラル光反応へと展開し、高い立体選択性を示す合成化学的にも有用な光反応系の構築へと検討を進める計画である。電荷移動錯体の光励起においては、基底状態での錯体構造が励起状態においてもある程度反映されるため、それを活用した立体制御が可能と期待され一重項励起種に比べ長寿命である励起三重項種を用いることで、合成化学的に有用性が高い反応系の構築が可能となるものと期待される。反応の精密制御には、量子化学計算なども駆使しながら、キラル化合物の基底状態、励起状態の光化学的物性、特に円二色性と円偏光発光との関係を体系的に検討することが重要となる。基質の基底状態、励起状態構造に関する知見を得、また、さまざまな条件下、どの程度の励起状態緩和が寄与しうるかを精査し、最終的には光反応へとフィードバックして更なる選択性の制御、向上を試みる。
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Research Products
(11 results)