2018 Fiscal Year Annual Research Report
双性イオン型トリアゾリウムアミデートの分子設計とラジカル触媒機能の創出
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18H01972
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大松 亨介 名古屋大学, 工学研究科(WPI), 特任准教授 (00508997)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 双性イオン / 1,2,3-トリアゾール / 触媒開発 / ラジカル触媒反応 / 水素原子移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
HAT触媒として機能する新しいアミジルラジカル前駆体として、双性イオン型トリアゾリウムアミデートを開発した。HAT反応を促進する分子はカルコゲンラジカルを筆頭にこれまでに数多く報告されてきている。一方、アミドから発生するアミジルラジカルもHAT試薬として働きうることが知られているが、その結合解離エンタルピー(BDE)の高さから従来のHAT触媒に比べ強力な引き抜き能を有するもののラジカル自体の発生が難しいという問題を有している。そのため、既報の反応のほとんどは、系内もしくは事前調製したハロアミドのハロゲン-窒素結合の均等開裂を起点とする当量反応に限られ、アミジルラジカルの触媒的利用に成功した例は報告されていなかった。近年プロトン共役電子移動(PCET)反応を利用してアミドから直接的にアミジルラジカルを発生させる手法が報告されたが、それらも当量以上のアミドが必要であった。 今年度の研究で、安定な双性イオンであるトリアゾリウムアミデートを創製し、その酸化電位の測定や消光実験により、適切な光レドックス触媒を用いた一電子酸化によってアミジルラジカルが生じ得ることを確認した。また、アミデートの共役酸であるアミドトリアゾリウムの結合解離エンタルピー(BDE)を算出し、対応するアミジルラジカルが強力な水素原子引き抜き触媒として機能するポテンシャルを有していることを明らかにした。実際に、テトラヒドロフランなどの炭化水素化合物を基質とした反応を試み、HAT触媒前駆体として高い機能を発揮することを実証した。また、ここで生成する炭素ラジカルをユニークな炭素-炭素結合形成反応に利用することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実績の概要欄記載の通り双性イオン型トリアゾリウムアミデートを創製し、効率的な水素原子移動反応を実現することに成功しており、初年度の研究は順調に進展したと言える。また、トリアゾリウムアミデートの類縁体を多数合成し、構造活性相関を実施した結果から、本触媒のユニークな特性が示唆されている。ここで得られた知見を活かすことで、分子構造に由来する特徴的な機能を活かした反応開発に展開できると考えている。 また、キラルな部分骨格を備えたトリアゾリウムアミデートの合成や、反応系内でキラルな対イオンをもつアミジルラジカルを発生させる手法の開発が進んでおり、水素原子移動反応の立体制御の実現に資する基盤が固まりつつある。 一方、理論計算によって触媒のBDEが非常に高い値になると見積っているが、触媒的水素原子移動反応に適用可能な炭化水素化合物は、BDEから想定される適用範囲と比べて制限が大きいことが明らかになってきている。水素原子移動反応は、BDEだけでなく、触媒であるラジカルと標的とする水素原子の極性や立体効果の影響を強く受けるが、トリアゾリウムアミデートと光レドックス触媒を併用するシステムでは、活性種であるアミジルラジカルの発生濃度が非常に低いことが、適用範囲の制限に影響している可能性が高いと考えられる。今後の研究では、この問題の解決に資する新しい双性イオン型オニウムアミデートの設計・開発を行うとともに、光レドックス触媒以外の酸化還元システムによるラジカル触媒生成を実現し、研究をいま以上に進展させたい。
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Strategy for Future Research Activity |
キラルなアミデート触媒による立体選択的水素引き抜き反応を開発を進める。一例として、メソ体のジオール誘導体を基質とする非対称化反応の開発に取り組む。触媒がトリアゾリウムイオン部位を有するという点を考慮すれば、n-π*相互作用だけでなくイオン間相互作用も基質認識に活用できる。例えば、リン酸塩を基質とすれば、触媒であるカチオン性アミジルラジカルとイオン対を形成すると想定されるため、より効果的な基質識別を実現し、立体さらには位置選択的な水素引き抜き反応に展開できる。 また、アミジルラジカルが、水素引き抜きによって求核的炭素ラジカルを発生させると、触媒分子自体は比較的酸性なアミドプロトンを有するトリアゾリウムイオンに変換される。この酸性なトリアゾリウムイオンが結合形成段階において求電子剤と相互作用すれば、立体選択的なラジカル付加反応が実現できると期待される。 以上のように、トリアゾリウムイオン部位を有する双性イオン型アミデートの開発にもとづき、水素引き抜き反応を効率的かつ選択的に進行させるための基盤技術を確立する。さらに、トリアゾリウムイオンの分子認識能を活かすことで、結合形成段階の立体制御を含めた多彩な選択的ラジカル触媒反応を開拓する。
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Research Products
(9 results)