2018 Fiscal Year Annual Research Report
炭素-ヘテロ原子結合の切断を鍵とする触媒的ヘテロ官能基化反応の開発
Project/Area Number |
18H01978
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
鳶巣 守 大阪大学, 工学研究科, 教授 (60403143)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 有機合成 / 触媒反応 / ヘテロ原子 |
Outline of Annual Research Achievements |
2,2'位にメチルチオ基を2つ有するビフェニルを基質として、触媒量のNaSMe存在下、DMF中で加熱することにより、2つの炭素-硫黄結合の切断をともなって、ジベンゾチオフェンが生成することがわかった。本反応ではケトンやシアノ基といった官能基は損なわれない。アミドに関しては、活性プロトンをもつ基質でも目的物が収率よく得られた。一方、芳香族求核置換反応では反応性が低下する電子豊富な環でも、反応は進行した。反応機構は、はじめに求核剤であるNaSMeと基質とがSN2機構により反応して、基質の脱メチル化が起こる。続いて、生じた硫黄アニオンがもう片方のベンゼン環のイプソ位を求核攻撃するとともにSMe基が脱離して生成物を与える。この脱離基が再度、反応初期段階の求核剤として機能するので、本反応では求核剤の添加は触媒量で反応が進行する。また2段階目の過程は従来のMeisenheimer型の錯体を経由する芳香族求核置換反応ではなく、求核剤の攻撃と脱離が協奏的に起こる機構 (CSNAr機構) であることがDFT計算により明らかになった。 2,2’位にジフェニルホスフィノ基を持つビフェニル誘導体を触媒量のNi(cod)2およびPhOTfの存在下で反応させることで、2つの炭素-リン結合の切断をともなって、ジベンゾホスホールが得られることが分かった。パラジウム触媒の場合とは異なり、sp3炭素-リン結合の切断をともなった環化反応も進行するので、例えばdppbのようなアルキルリンカーを持つビスホスフィンから環状リン化合物を合成することが可能である。1つの炭素-リン結合が切断されたアリールニッケル(II)錯体の単離、X線結晶構造解析にも成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、3級アミン、スルフィド、3級ホスフィンのような安定分子の炭素-ヘテロ原子結合の切断を鍵とする触媒反応の開発を目指している。反応設計の鍵は、独自に開発した触媒的オニウム塩の形成型の還元的脱離反応である。オニウム塩の形成により、続く炭素-ヘテロ原子結合の活性化が容易になる。本知見を有機合成手法として昇華させるために、炭素-硫黄結合切断反応への応用を検討した。その結果、目的の反応が進行することに加えて、従来必要であったパラジウム触媒が不要であることがわかった。すなわち、芳香族求核置換反応により炭素ヘテロ原子の置換反応が触媒的に効率よく進行することがわかった。さらに、炭素-リン結合の切断においても、従来パラジウムに比べて還元的脱離能が悪いとされているニッケル触媒でも同様の反応が進行することが明らかとなり、このことはより困難なsp3炭素-リン結合の切断を含む反応開発への展開を可能にした。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究により、炭素-ヘテロ原子の結合切断には必ずしも遷移金属触媒は必要ないことが明らかとなった。従って、当初予定していた遷移金属触媒に加えて、金属フリーの反応による合成反応開発も検討を進める。さらに、硫黄やリン以外のヘテロ原子の切断を経る反応についても検討する。
|