2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18H01979
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
小笠原 正道 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 教授 (70301231)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 面不斉 / フェロセン / 不斉配位子 / オレフィン / メタセシス / キラルカラム / 多糖類 / 異性体分離 |
Outline of Annual Research Achievements |
1位と1'位を1-buten-1,4-diyl架橋されたフェロセン類の2位にジアリールホスフィノ基を導入した面不斉フェロセニルホスフィン類を単一のエナンチオマーとして合成する手法を確立した。これらの面不斉フェロセニルホスフィン類は、ホスフィン部位と架橋オレフィン部位とでパラジウムやロジウムなどの遷移金属にキレート配位し、優れた不斉配位子として作用することを見出した。例えば、ロジウム触媒によるアリールボロン酸による共役エノンへの不斉1,4-付加反応においては、99%を超える非常に高いエナンチオ選択性が達成された。この新規面不斉フェロセニルホスフィンーオレフィン配位子においては、ホスフィノ基が置換したのと反対側のシクロペンタジエニル基の立体的なかさ高ががその性能に大きく関与することが認められた。架橋部以外に置換基を持たない、C5H4-誘導体に比べてC5Me4-誘導体は格段に良いエナンチオ選択性を示す。また、これらの面不斉フェロセニルホスフィン類の前駆体を不斉閉環メタセシス反応によって触媒的に不斉合成できることも示したが、そのエナンチオ選択性に関してはまだ不十分であり今後の検討課題である。 これらの研究の過程で、「キラル化合物のエナンチオマー分離」を目的として開発されたキラルHPLCカラムが、「非鏡像関係にある構造異性体の分離」に優れた作用を示すことを見出した。多糖類を固定層に有するキラルHPLCカラムは、様々な遷移金属錯体の「二重結合位置異性体」、「アルケニル基の構造異性体」、「アルケンの幾何異性体」の分離に極めて有効である。これらの異性体混合物において、異性体間での構造の差異が微少であり、シリカゲルHPLC/再結晶/蒸留などの常法では分離精製が不可能であるにもかかわらず、多糖類を固定層に有するキラルカラムにより異性体の完全分離が達成できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
特異な構造を有する面不斉フェロセンを基盤とする新規C1対称不斉ホスフィンーオレフィン配位子の開発に成功した。これらの新規不斉配位子は、様々なロジウム/パラジウム触媒反応において従来にない高いエナンチオ選択性を示しすことから、そのほかの遷移金属触媒不斉反応への応用に興味がもたれる。また、これらの面不斉フェロセニルホスフィンーオレフィン配位子のパラジウム錯体の結晶構造を決定し、配位子の立体構造とエナンチオ選択性との相関を考察した。これらの知見により、さらに高い選択性を目指して立体修飾の可能性を考察している。現在、これらの考察を基に新規誘導体の合成を検討している。 また、これらの面不斉遷移金属錯体の合成の過程で、多糖類を固定層に有するキラルHPLCカラムのユニークな応用法も見出している。本知見は、当初計画とは直接関係の無い結果であるが、複雑な分子の選択的合成において必須の技術である「マイナー副生成物の除去」という化学工学的に価値の高い知見であると考える。本研究結果はすでに論文としても発表済みであり、さらなる応用に関しても検討する予定である。 以上のように、当初予定の計画において有意義な結果を見いだしつつ、偶然の発見を論文発表に仕上げることもできており、研究総体としては概ね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年までに得られた結果に基づき、今後は以下の点について検討を加える予定である。 (1)面不斉フェロセニルホスフィンーオレフィン配位子のさらなる高機能化の検討。フェロセン核に立体修飾を施すことにより、より高いエナンチオ選択性の実現を目指す。具体的には、フェニル基やベンジル基を導入した配位子を合成する予定である。 (2)不斉メタセシス反応による面不斉ビニルフェロセンの測度論分割二量化の検討。上記、面不斉フェロセニルホスフィンーオレフィン配位子の触媒的不斉合成の検討過程で、単分子での閉環メタセシスと二分子でのクロスメタセシスが競合する系を見いだしている。この知見を基に、適切に分子設計した面不斉フェロセン基質も用いて、前例のない「面不斉フェロセン類のエナンチオ選択的二量化反応」の開発を検討する。 (3)多糖類を固定層に有するキラルHPLCカラムの非鏡像関係にある異性体分離への応用。前年の研究において、多糖類を固定層に有するキラルHPLCカラムが様々な遷移金属錯体の異性体分離において極めて有効であることを見出している。本知見は、遷移金属錯体に限らず、一般の有機化合物の構造異性体分離においても潜在的に応用可能であると思われる。本年は、遷移金属を含まない通常の有機化合物を用いて多糖類を固定層に有するキラルHPLCカラムの分子認識能の検証を行う。
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Research Products
(13 results)