2019 Fiscal Year Annual Research Report
Si-Cl結合切断を鍵とするクロロシラン類の触媒的分子変換技術の確立
Project/Area Number |
18H01986
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
中島 裕美子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究チーム長 (80462711)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | クロロシラン / 有機ケイ素化合物 / ニッケル触媒 / 鉄錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、強固なSi-Cl結合の酸化的付加反応を鍵とするクロロシラン類の触媒的分子変換技術の開発と、学術的に未解明なSi-Cl結合の酸化的付加反応の機構解明に取り組む。昨年度から引き続き、カップリング反応を応用したクロロシラン類の分子変換反応開発に取り組んだ。その結果、類似のニッケル触媒系を用いることで、新しくアルキルアルミをカップリングパートナーとして利用する選択的なクロロシランのアルキル化反応を見出した。従来法ではクロロシランのアルキル化は反応性の高いグリニヤ試薬を用いたため、モノもしくはジアルキル化を選択的に達成することは困難であった。一方で、本触媒反応は温和な条件で進行するために容易に反応選択性の制御が可能となる。以上の成果は、ChemCatChem誌にて論文発表を行い、さらにバックカバーとして採択された。 2018年度の取り組みにおいて、平面四座PNNP配位子(2,9-bis(diphenylphosphino)methyl-1,10-phenanthroline) を有する鉄(0)錯体が極めて強い電子供与性を示し、室温で容易にSi-Cl結合切断を達成することを見出した。本年度は、機構解明に取り組み、本反応はラジカル機構で進行することが示唆された。そこで、ラジカル捕捉剤である9,10-ジヒドロアントラセン存在下で錯体1とSiCl4との反応行うと、系中でトリクロロヒドロシラン(HSiCl3)が生成することを見出した。クロロシランを原料とするヒドロシラン合成は、ケイ素化学工業において最も重要な反応の一つである。本反応は、強固なSi-Cl 結合の切断を伴うため、 LiAlH4 などの高反応性試薬を量論量用いた手法が一般的である。これに対し、本研究では、クロロシランの酸化的付加反応がラジカル機構により進行することで、容易にSi-H 結合形成が達成されることが見出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、2018年度に見出したクロロシランの分子変換に関する触媒反応および素反応をさらなる展開へと導けた一年であった。具体的には、クロロシランの選択的アルキル化を可能とする触媒技術を開発し、その成果は国際的に権威のある雑誌のカバーとして紹介された。また、新たに開発したPNNP鉄(0)錯体を用いては、9,10-ジヒドロアントラセンという温和な水素源を用いてクロロシランの水素化に成功した。上述の通り、クロロシランの水素化反応は工業的に重要な反応であり、一般的にはLiAlH4 などの高反応性試薬を量論量用いた手法が用いられる。本研究で見出されたクロロシランのラジカル機構によるケイ素‐塩素結合切断反応は、新しい温和なヒドロシラン合成法を提案する極めて意義深いものと言える。理論計算を用いた機構解明の取り組みでは、本反応がラジカル機構で進むことから、開殻系での計算へと転換を迫られたことから、機構解析を完結させることは出来なかった。以上を総合して、本年度は計画以上の進展が達成されたと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに開発したニッケル触媒系を基盤技術とし、さらにクロロシラン類の触媒的分子変換技術の開発を続ける。最終年度の目標であるクロロシラン分子変換反応の体系化に向け、研究を加速させる。 これに加え、クロロシランのケイ素‐塩素結合切断反応がラジカル的に進行するということを世界で初めて見出し、これが工業的に重要なクロロシランの水素化反応に有用であることを見出した。本反応の機構解明をさらに進める。具体的にはオペランドEXAFSなど、新しい分析手法を駆使することによる機構の徹底解析を行い、国際的に権威のある雑誌に論文として外部発表を果たすことを目標とする。
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