2019 Fiscal Year Annual Research Report
芳香環ナノポケットを活用した生体活性分子の選択識別と機能変換
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18H01990
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
吉沢 道人 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (70372399)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 分子カプセル / 生体関連分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、生体内のタンパク質ナノポケットが持つ魅力的な空間機能に発想を得て、フラスコ内で特異な空間機能を創出するため、“芳香環ナノポケット”を活用した生体活性分子の選択的な識別とその機能変換を達成することである。その戦略として、芳香環のみで囲まれた1ナノサイズの空間を有する水溶性の分子カプセルおよびチューブを利用する。研究の第1目標として、申請者が開発したこれらの芳香環ナノポケットを用い、水中で様々な生体関連分子の選択的な識別を達成する。第2目標では、ナノポケット内に取り込まれた生体分子の構造と物性を解明し、機能の変換を目指す。さらに第3目標では、酵素反応を模倣して、芳香環ナノポケットを反応場とした水中・室温での高活性な触媒機能を開拓する。これらを通じて、医療や材料分野での最先端分子技術となる独創的な人工空間機能を創出する。 本年度は、芳香環に囲まれた疎水性ナノ空間が、水中で、超微量で高活性な機能を持つステロイド性ホルモンを定量的に内包できることを解明した。まず、様々な組み合わせの内包の競争実験から、男性ホルモン(テストステロンなど)が女性ホルモン(プロゲステロンやβ-エストラジオールなど)より、優先的に内包されることを見出した。次に、各性ホルモンの中での親和性の序列を解明した。続いて、親和性の原因を明らかにするため、内包体のX線結晶構造解析を行った。その結果、芳香環ナノ空間内でのホルモンによるinduced-fit機構とそれによる多点分子間相互作用が示された。さらに、蛍光性色素を利用したテストステロンの微量蛍光検出を達成した。水中での芳香環ナノポケットと生体関連分子の特異な相互作用を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、芳香環ナノポケットが水中で、種々のステロイド性ホルモンを内包できることを見出した。また、X線結晶構造解析による詳細な識別メカニズムの検証から、芳香環ナノ空間内でのホルモンによるinduced-fit機構とそれによる効果的な多点分子間相互作用が示された。さらに、蛍光性色素を利用したテストステロンの微量検出を達成した。この前例のない、水中でのステロイド性ホルモンの選択的内包と蛍光検出に成功したことから、本研究は当初の計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、重要な疎水性の生体分子である脂肪酸をターゲットにする。この生体活性分子は、柔軟で相互作用の弱い長鎖のアルキル鎖を持ち、その骨格中の不飽和部位(炭素-炭素2重結合)の数の違いで、全く異なる性質を示すことが知られている。これらの疎水性の生体分子に対して、配位結合性カプセルが提供する“芳香環ナノポケット”を活用して、水中で内包挙動を調査する。不飽和数の異なる脂肪酸の混合物から、特定の脂肪酸を選択的に識別することに挑戦する。また、ポリ不飽和のDHAやEPAの選択的内包を検討する。さらに、脂肪酸の不飽和部位は酸素や光に不安定であることから、芳香環ナノ空間内での安定化効果を解明する。上記の知見を基に、光機能性の生体π共役分子のレチナール、高揮発性のテルペノイドなどをターゲットに、人工ナノポケット内での構造と物性の変化を解明する。
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