2018 Fiscal Year Annual Research Report
高次励起状態から発光する分子設計と光エネルギー材料への応用
Project/Area Number |
18H02046
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
平田 修造 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 助教 (20552227)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | Kasha則 / 高次一重項励起状態 / 内部項間 / 光アップコンバージョン / 2光子吸収 / 分子軌道 |
Outline of Annual Research Achievements |
高次励起状態(Sn)が最低励起状態(S1)にまで高速に緩和する分子光化学の概念は、新しい光化学過程を材料中に構築していく上での大きな障害となっている。本研究ではそのような根本的な問題を解決する分子設計を提案するとともに連続光下での光アップコンバージョン(PUC)に向けた材料開発を行う。具体的には基底状態とS1は一部電子軌道の)オーバーラップが生じるが、特定のSnとS1の電子軌道は分離された分子群を開発する。この分子ではSnからS1における電子緩和過程が遅くなる結果、Snの寿命が長くなりSnからの高効率蛍光が期待される。さらにそのような分子を剛直ホストにドープした際の最低励起三重項状態を経由した2段階吸収過程によるPUCを検証する。本研究では、通常孤立分子では生じないとされる弱い連続光下での非線形光化学の新しい研究分野の土台を構築していく上でも重要な研究になる。 現在までにSnから発光する複数の新規骨格分子の合成に成功した。またこれら分子の中には通常の非共鳴型の2光子吸収が生じる分子と比較して、更に弱いナノ秒光パルスでのPUCを可能とする分子も存在した。その弱いナノ秒パルスでの光アップコンバージョンは、基底状態からS1そしてS1からSnへの効率よい2段階吸収により達生されていることを確認した。 今後は、S0からS1への吸光係数、S1での蛍光寿命、S1からSnへの吸光係数、Snからの蛍光量子収率が大きくなる分子設計を直近の目標とすることで、よりよわいナノ秒パルス光源でのPUCを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高次励起状態(Sn)や最低一重項励起状態(S1)の電子軌道が制御された分子を計算科学により設計しそれら分子を各種合成した。合成した各種分子は溶液状態で緑色領域に吸収を示す一方で、紫外光下ではSnから青色蛍光を示した。そのSnからの蛍光量子収率は大きいもので1%近くまで増加した。Snからの蛍光の要因を考察するために、各種電子軌道を量子化学計算により計算した。Snからの蛍光を示す分子はSnとSm(m=1~n-1)の電子軌道が大きく分離したものが多いが、分離している分子でもSnから蛍光を示さない分子も確認された。 さらに合成した分子の一部は532 nmのナノ秒光パルス下で高強度の青色アップコンバージョン蛍光を示した。この強度は緑色の励起光強度の2乗に比例して増加することから、2光子吸収による光アップコンバージョン蛍光であることが確認された。この2光子吸収による光アップコンバージョン特性は、これまでに報告されている非共鳴型の2光子吸収分子よりも大きく、ナノ秒光パルス下で最も強く光アップコンバージョンを示す分子を開発することに成功した。Snからの蛍光量子収率から、この大きな光アップコンバージョン特性は、緑色の実吸収によりS1が効率よく形成され、その後S1からSnへの2段階目の吸収が効率よく生じる2段階吸収による大きな2光子吸収特性に基づくものであることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
吸収スペクトル測定、過渡吸収分光計測、蛍光寿命測定等を用いて開発した分子が従来の2光子吸収分子よりも同じナノ秒光パルス下でより高強度の光アップコンバージョンを示すメカニズムを定量的に解析する。具体的には、2段階光吸収による光アップコンバージョンでは、基底状態(S0)からS1への吸光係数、S1での蛍光寿命、S1からSnへの吸光係数、Snからの蛍光量子収率に依存して光アップコンバージョンが生じると考えられるため、個々のパラメーターを実測する。またSnからS0への電子遷移の振動子強度が大きくなる分子を計算科学により推定し、Snからの蛍光量子収率の増加が期待される分子骨格を合成することで、さらに弱いナノ秒光パルス下での光アップコンバージョンの抽出を目指す。 また剛直な固体ホスト中でSnから蛍光を示す分子骨格にて、室温での最低励起三重項状態(T1)の寿命が長くなる分子を設計し合成する。本年度導入する真空成膜装置を用い、合成した分子が剛直なホストバインダーにドープされた薄膜を作製する。その薄膜の基底状態からS1への吸収スペクトルを紫外可視分光光度計により計測し、T1から高次三重項励起状態(Tn)への吸収スペクトルを過渡吸収測定により測定する。また室温でのT1寿命を過渡吸収計測および発光寿命測定により計測する。さらに、その薄膜に532 nmの連続光を照射した際の光アップコンバージョン特性の有無を計測する。
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