2019 Fiscal Year Annual Research Report
異種アニオン導入による非晶質酸化物半導体の高移動度化:起源の解明と新材料探索
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18H02054
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
廣瀬 靖 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50399557)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
関場 大一郎 筑波大学, 数理物質系, 講師 (20396807)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 非晶質半導体 / 複合アニオン化合物 / 薄膜トランジスタ / 熱電変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
非晶質半導体はフラットパネルディスプレイやフレキシブルデバイスの基幹材料の一つである。近年、非晶質酸窒化亜鉛(ZnON)において200 cm2V-1s-1を超える高移動度が報告され、酸化物への異種アニオン導入が気象元素を含まない高移動度非晶質半導体の開発戦略として注目されている。本研究では、非晶質酸窒化物、酸フッ化物、酸硫化物などの複合アニオン化合物薄膜を合成し、(1)非晶質ZnONの高移動度の起源を探るとともに、酸化物への異種アニオン導入を利用した高移動度非晶質半導体の設計指針を明らかにすることを目指す。並行して、(2)光学特性や熱電変換特性などの新たな機能開拓にも取り組む。 本年度は、(1)に関して非晶質ZnON薄膜の電気伝導率とキャリア濃度の温度依存性を測定し、伝導帯下端のポテンシャルゆらぎを評価した。非晶質ZnON薄膜は低キャリア濃度でも縮退し、パーコレーションモデルから直接ポテンシャル障壁を求めることはできなかった。そこで、数値計算によるシミュレーションを行い、65meV未満と見積った。この値は非晶質InGaZnO4膜(約75meV)よりも小さく、ZnONの高移動度の一因であることが確かめられた。(2)に関しては、熱電変換素子向けに非晶質ZnON薄膜のキャリア濃度を調整した結果、従来報告されている非晶質酸化物薄膜の出力因子の2倍を達成した。さらに、非晶質酸化物と同様に熱伝導率が低いことも確認し、フレキシブル熱電変換材料として有望であることを示した。また、非晶質ZnOS薄膜をチャネル層に用いたバックゲート型薄膜トランジスタの作製に成功した。As deposited状態の非晶質ZnOS薄膜の電界効果移動度はホール移動度に比べて低かったが、ポストアニール処理により同程度まで向上することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【(1)非晶質ZnONの高移動度の起源と高移動度材料開発指針の解明】 伝導帯下端のポテンシャルゆらぎが非晶質InGaZnO4よりも小さく、高移動度の一因であることを明らかにした。これは、非晶質ZnON薄膜の高移動度の起源を解明するうえで重要な成果である。一方、他のZn-O-X系材料との比較を行うために非晶質ZnOF薄膜の輸送特性の評価を試みたが、抵抗が高くホール効果測定を行うことができなかった。また、試料表面にZnF2のドロップレットが析出して平坦性が悪く、TFTを用いた電界効果移動度の測定も困難であった。これらの点については今後改善が必要であるが、概ね順調に進んでいる。 【(2)非晶質複合アニオン酸化物薄膜の機能開拓】 前年度に引き続きZnON薄膜の熱電変換特性を評価し、非晶質酸化物半導体よりも優れた特性を示すことを確認した。また、非晶質複合アニオン酸化物をチャネル層に用いた薄膜トランジスタの作製プロセスを検討し、非晶質ZnOS薄膜を用いた素子のトランジスタ動作を実現した。後者は応用上特に重要な成果である。 以上より、計画全体として順調に進展していると結論した。
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Strategy for Future Research Activity |
【(1)非晶質ZnONの高移動度の起源と高移動度材料開発指針の解明】 伝導帯下端のポテンシャルゆらぎと移動度の関係をより詳細に検証する。そのために、非晶質ZnON薄膜よりも移動度の小さな非晶質ZnOS薄膜についても輸送特性の温度依存性をパーコレーションモデルで解析し、伝導帯下端のポテンシャルゆらぎを定量的に評価する。また、非晶質ZnOF薄膜の合成条件を検討し、輸送特性評価が可能な薄膜を作製する。さらに、Sn-O-XやGa-O-XなどのZn以外のカチオンを含む新奇非晶質複合アニオン酸化物薄膜も合成して同様の解析を行い、ポテンシャルゆらぎとアニオン組成の関係からミクロスコピックな起源を明らかにする。 【(2)非晶質複合アニオン酸化物薄膜の機能開拓】 デバイス応用の観点から、薄膜トランジスタを中心に研究を進める。前年度に動作を確認した非晶質ZnOSを用いたトランジスタは、電界効果移動度がホール効果に比べて大きく劣った。これは、アニオン空孔や水素不純物などによるトラップ準位の形成を示唆している。そこで、アニール処理などによる移動度の改善、およびC-V測定やXPS測定によるトラップ準位の同定に取り組む。並行して(1)で作成するSn-O-XやGa-O-Xなどの新奇材料を用いたトランジスタの試作も進める。
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Research Products
(4 results)