2019 Fiscal Year Annual Research Report
赤外円二色性の理論計算とラベル化による中分子・極性分子の新たな構造解析法の開発
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18H02093
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
谷口 透 北海道大学, 先端生命科学研究院, 講師 (00587123)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 円二色性 / 構造決定 / 柔軟分子 / 中分子 / 理論計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
中分子や柔軟分子のような新奇分子の構造を簡便に分析する手法の開発に向けて、赤外円二色性(VCD)の理論計算と化学ラベル化という二つのアプローチを用いて研究を進めてきた。理論計算を用いるアプローチでは、従来の分子力学(MM)計算と段階的な密度汎関数法(DFT)を用いた計算法に加え、新たに分子動力学(MD)計算の手法ならびに溶媒-溶質相互作用を考慮したONIOM計算の手法を取り入れた。これらの手法を包括的に用いることによって、極性分子(水溶性分子など)や柔軟分子についても、計算の正確さを向上させることに成功した。2019年度の研究では、脂質類や飽和アルカン類ならびにマクロライドなど、二次代謝産物としてよく見られる分子群に本手法を応用すべく、これら各種分子を有機合成によって調達するとともに(天然から供給される量では限りがある)、これらの各種分子の構造解析を達成した。この中でもマクロライドについては論文報告しており、脂質についても論文執筆中である。 また、2019年度ではヌクレオシドの構造解析にも注力した。ヌクレオシドはその誘導体のAZTなどが抗HIV薬として臨床で用いられており、その糖部分の立体配座が薬理活性に重要であることが知られている。しかしながら、ヌクレオシドの詳細な立体配座を決定する方法は知られていなかった。本研究では、各種ヌクレオシドの理論計算ならびに分光測定を行い、そのコンフォメーションを水中で決定しうるという予備的知見を得た。 化学ラベル化を用いる実験系について、-OCD3(重水素化メトキシ)基を導入することにより、-OCD3基の伸縮振動に由来する2100 cm-1領域のVCDシグナルを観察するだけで-OCD3基近傍の構造情報を得ることができることを見出し、この方法論を各種化合物に応用した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では赤外円二色性の理論計算と化学ラベル化の両方の研究を推進している。両方のプロジェクト共に良好な結果を得ており、当初計画以上の進展がある。しかしながら、論文化については当初計画と同程度のペースで進行しており、特に脂質・飽和アルカン系分子の構造決定や、化学ラベル化に関する論文(ラベル化用の官能基の検討ならびに、天然物への応用)については論文としてまとめられるだけのデータが得られたものの、まだ論文発表には至っていない。以上より、成果に対して論文発表が追いついていないことを鑑み、自己点検による評価を(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度までの研究において、リシノール酸のような柔軟性の高い脂質分子のVCDによる構造決定法を確立している。そこで令和2年度の研究では本方法論を用いて、フッ素化などの修飾を受けたリシノール酸、アラキドン酸、プロスタグランジンなど各種脂質についてもその立体配置・立体配座を決定する。また、一部の成果については令和2年度中の論文化を目指す。 水酸基が多く、また柔軟な分子の例として、令和2年度ではヌクレオシド系分子の立体配座の精密解析法を確立し、論文報告を目指す。また、各種単糖・オリゴ糖についても合成を完了し、VCD構造解析と併せて、論文報告を目指す。 化学ラベル化による構造情報の抽出法の確立にあたり、令和元年度に引き続き重水素化分子やその他のラベル化分子の合成・VCD解析を実施する。 令和元年度までの研究で、2100cm-1付近に吸収を示すビナフチル骨格を有するカルボジイミド系分子についてアメリカ化学会誌に報告した。令和2年度は、カルボジイミド系分子についてさらに研究を進めるとともに、ビナフチル骨格を有する類似のラベル化モデル分子についても研究を進める 。 本研究でこれまで得られた知見を用いて、令和元年度は共同研究を通じて多くの分子の構造決定を達成してきた。令和2年度は、さらに積極的に共同研 究を進め、本研究で得られた知見を他の研究グループの研究の円滑な実施へと還元したい。
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Research Products
(7 results)