2020 Fiscal Year Annual Research Report
赤外円二色性の理論計算とラベル化による中分子・極性分子の新たな構造解析法の開発
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18H02093
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
谷口 透 北海道大学, 先端生命科学研究院, 講師 (00587123)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 円二色性 / 構造決定 / 柔軟分子 / 中分子 / 理論計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
中分子や柔軟分子のような新奇分子の構造を簡便に分析する手法の開発に向けて、赤外円二色性(VCD)の理論計算と化学ラベル化という二つのアプローチを用いて研究を進めてきた。理論計算を用いるアプローチでは、従来の分子力学(MM)計算と密度汎関数法(DFT)を用いた計算法に加えて、特に構造決定したい分子のフラグメント構造を適切に抽出・モデル化して計算に用いる手法を活用した。本計算法は構造解析に有用であるのみならず特性IR・VCD吸収の振動モード解明にも有効である。 主に化学ラベル化を用いるアプローチについて研究を進め、対象分子に対して2400-1900 cm-1に吸収を有する発色団を導入することによって複雑な分子でもその局所構造情報を本発色団のVCDシグナルを基に解明する方法論の開発を実施した。適切な官能基を探索するべく、シアノ基、イソシアノ基、アルキン基、アジド基などを各種分子に導入しそのVCDを測定した。アジド基は特に強度が大きく、解釈しやすいVCDシグナルを与えることを見出した。アジド基について観測されたVCDシグナルは、DFTによるVCDスペクトル理論計算によって実測スペクトルをよく再現できた。このことから、アジド基を有する分子について、実測スペクトルと理論スペクトルを比較することで、解析対象分子の立体配置に対する予備知識なしに、その立体配置を決定できることを示した。また、シグナル強度は小さいものの重水素メトキシ基(OCD3)は局所構造の抽出に特に有効であることも見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの影響によって当初は遅れが出たものの、化学ラベル化について論文発表可能なデータをほぼ揃えることができた。また重水素メチル基が解析対象分子の局所構造の不斉中心のみを抽出して観測するという画期的な発見ができた。 また本研究におけるVCD理論計算の知見をNMR計算やECD計算に応用し、共同研究を通じて複数の論文を発表できた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度まではリシノール酸のような柔軟性の高いhydroxy fatty acidについて研究を進めてきた。今後、水酸基を有する脂質のみならず、hydroperoxide(-O-O-H)を有する複数の脂質についてもVCD理論計算を用いてその構造を決定できるかどうかについて検討を進める。また、エポキシドを有する酸化脂質についても研究を進める。研究がまとまり次第論文報告する。 化学ラベル化についても順次論文発表する。
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