2018 Fiscal Year Annual Research Report
Chemical Biology for Parkinson's disease
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18H02099
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
井本 正哉 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (60213253)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
斉木 臣二 順天堂大学, 医学部, 准教授 (00339996)
野田 展生 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 部長 (40396297)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | パーキンソン症 / タンパク質凝集 / オートファジー / バイオマーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
パーキンソン病(PD)は,日本全体で15万人から18万人の患者がいると推定されており,中脳黒質緻密質のドーパミン細胞の変性や細胞死を主な病因として発症する神経変性疾患である. 現在使われている治療法は全て「対症療法」であり,脳内ドーパミン量の補充による運動障害の軽減を目的とした薬物治療である.しかし,これらの薬物は疾患の進行を抑制することが期待されないため,神経細胞死を抑制するような根本的な治療薬の開発が切望されている.そのような背景のもと,申請者らは根本的治療薬の創出を目指したスクリーニングを行い,これまでに申請者らはPD患者脳で観察されるたんぱく質凝集をクリアランスする2種類の化合物と,PDのバイオマーカーを指標にしたスクリーニングから1化合物の計3化合物を取得している.本研究では,たんぱく質凝集をクリアランスするSO286がオートファゴソーム形成に関わるDIC2への結合部位に関する詳細を解析し,SO286がTctex1相互作用部位に結合を明らかにし,タンパク質クリアランスに至る経路の一端を明らかにした.た.また,もう一つのクリアランス化合物SMK-17のオートファジー誘導機構を解析し,mTOR非依存的経路でオートファジーを活性化することでタンパク質のクリアランスを誘導することを示した.一方,PD患者で低下しているビリルビン量を回復させるスクリーニング系でヒットしたJQ1はビリルビン低下に関わる酵素HO-1の発現量を転写レベルで回復させることでビリルビン量を回復させることを見出した.またJQ1はミトコンドリア機能を回復させることで活性酸素産生を顕著に抑制していたことから,JQ1がオートファジー誘導とミトコンドリア保護を介して神経保護作用を示すことが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PDモデル細胞系でタンパク質凝集をクリアランスする化合物 SO286はその結合タンパク質DIC2のTctex1相互作用部位に結合することがわかった.また, KDは118.23±9.11 nMであった.さらにシュレディンガーを用いて,SO286のDIC2に対する結合様式を予測したところ,SO286とDIC2の結合にはDIC2の137番目のイソロイシンと141番目のアスパラギン酸が重要であることが示唆された. おなじくタンパク質凝集をクリアランスするSMK-17はmTOR によって制御されるS6 キナーゼのリン酸化やULK1 の活性化を誘導しなかったことから,mTOR 非依存的にオートファジーを誘導することを見い出した.興味深いことに,mTOR 下流で誘導されるTFEB の核内移行はmTOR 依存的なTorin1 だけでなくmTOR 非依存のSMK-17 でも誘導された.このことから,SMK-17 はバイパス経路の活性化を通してlysosome のBiogenesis に関わるTFEB の核内移行を誘導している可能性が示された. PDのバイオマーカーを指標にしたスクリー二ングでヒットしたJQ1について,JQ1による細胞内ビリルビン回復機構について解析を行った結果, JQ1の濃度依存的にロテノンが誘導するHO-1の発現減少を抑制することが分かった.このことから,JQ1がHO-1の発現上昇を介して細胞内ビリルビン量を回復していることが示唆された.またJQ1はミトコンドリア機能を回復させることで活性酸素産生を顕著に抑制することが分かった.これらの結果から,JQ1がオートファジー誘導とミトコンドリア保護を介して神経保護作用を示すことが示唆された.
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Strategy for Future Research Activity |
1)たんぱく質凝集をクリアランスするSO286化合物の作用機構解析:これまでにSO286物質の細胞内標的たんぱく質としてたんぱく質XとYを同定している.このうち,たんぱく質Xは天然変性たんぱく質であり, LLPSを形成することでオートファジーに関与することが考えられる.そこで,たんぱく質XによるLLPS形成の検証およびそれに及ぼすS0286物質の影響を検討する.これまでに細胞内たんぱく質XがLLPS様の構造体を形成する事は見出しているので,FLAPアッセイでより詳細に解析を進める.また,構造体の形成や動態,さらにはSO286による構造体形成の影響をイメージングを用いたムービーで検証する. 2)たんぱく質凝集をクリアランスするSMK-17化合物の作用機構解析:これまでに本化合物はTorin1などのmTOR依存的オートファジー促進剤とは異なった機構でオートファジーを促進して凝集たんぱく質をクリアランスすると考えている.そこで,SMK-17のオートファジー誘導機構をオートファジー関連たんぱく質の発現挙動解析から検証する.特に,TFEB発現やPDK-AKTパスウェイを中心に,リソソームに対する影響を解析する.また,SMK-17のビオチン標識化合物を用いて,プルダウン法で細胞内標的たんぱく質を同定する. 3)PDバイオマーカーを指標にしたPD病態改善化合物:PD患者で減少するバイオマーカーであるビリルビン量を回復させる化合物の探索により,JQ-1と化合物Zがヒットした.また,化合物ZはNrf2の核内移行を介してHO-1の発現を上昇させることを示唆しているが,これをNrf2のsiRNAを用いて確かめる.また,Nrf2の核内移行メカニズムについて上流のキナーゼであるAktやErkなどのリン酸化を指標に調べる.
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Research Products
(8 results)