2018 Fiscal Year Annual Research Report
Studies on the molecular basis of incompatibility for creating the variety of industrial abilities in Koji mold Aspergillus oryzae
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18H02123
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
丸山 潤一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任准教授 (00431833)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北垣 浩志 佐賀大学, 農学部, 教授 (70372208)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 麹菌 / 不和合性 / ゲノム編集 / 細胞融合 / 糸状菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
糸状菌においては、遺伝的に不適合である株間で細胞融合体が死に至るまたは十分な生育ができない「不和合性」という現象が存在する。研究代表者らはこれまでに、有性世代が発見されていない麹菌において交配育種法を開発する過程で、多くの株の組み合わせが不和合性であることを初めて発見した。これは、麹菌の交配育種による形質多様性の創出が困難であることを意味している。 本研究では、比較ゲノム解析により株間の配列多型を見いだして、不和合性の自己・非自己認識機構を明らかにする。さらに、ゲノム編集技術を利用した効率的な遺伝子操作により、不和合性に関与する遺伝子を探索・同定する。麹菌の形質多様性の創出を可能とする交配育種法の確立を目指し、これを阻む不和合性を制御する機構の分子基盤の解明を目的とする。 2018年度は、他の糸状菌において配列多型が株間の不和合性を決定することが知られているHETドメインに着目し、これを有するタンパク質をコードする遺伝子(HETドメイン遺伝子)の解析を行った。44個存在するHETドメイン遺伝子から塩基配列多型が見られる遺伝子について、不和合性である株間で異株発現を行った。その結果、異株発現により生育阻害を引き起こすHETドメイン遺伝子が4つ存在することを見いだした。これらのHETドメイン遺伝子に関して生育阻害の特異性の原因となる塩基配列置換を特定できたことから、麹菌株間の塩基配列多型が単なる変異の蓄積でなく生理的な意味をもつことを明らかにした。 以上の結果から、HETドメイン遺伝子の異株発現により不和合性決定遺伝子の候補を見いだすことができた。2019年度は以上の候補遺伝子について、ゲノム編集技術を利用して効率的な破壊を行うことで不和合性への関与を解析する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
麹菌では食品醸造をはじめ様々な用途に多くの実用株が用いられており、これまでに研究代表者らは麹菌実用株において不和合となる株の組み合わせが存在することを初めて発見した。 2018年度は、他の糸状菌において配列多型が株間の不和合性を決定することが知られているHETドメインに着目し、これを有するタンパク質をコードする遺伝子(HETドメイン遺伝子)の解析を行った。互いに不和合である野生株RIB40と日本酒製造用株RIB128の2株間で異株発現することにより、生育阻害を引き起こすものを不和合性決定遺伝子の候補として探索した。 44個存在するHETドメイン遺伝子から塩基配列多型が見られる遺伝子について、不和合性な株間で異株発現を行った。RIB128株由来の配列多型なHETドメイン遺伝子をRIB40株において異株発現させた結果、生育阻害を引き起こす2遺伝子を見いだした。反対に、RIB40株由来の配列多型なHETドメイン遺伝子についてもRIB128株において異株発現させた。その結果、RIB128株由来の遺伝子の異株発現では変化が認められなかったが、RIB40株由来の遺伝子の異株発現により強い生育阻害を示す2つの遺伝子を見いだした。 以上の4遺伝子について、その遺伝子が由来する株での過剰発現を行い、異株発現の結果と比較した。その結果、異株発現のときのみ生育阻害を引き起こしたHETドメイン遺伝子、一方の株由来のもので両株に対し生育阻害を生じたHETドメイン遺伝子が明らかになった。さらに、これらのHETドメイン遺伝子に関して生育阻害の特異性の原因となる塩基配列置換を特定した。以上の結果より、不和合性決定遺伝子の候補を見いだすことができたことで本研究は進展しており、次年度に予定している研究において不和合性への関与が明らかになることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、前年度に探索したHETドメイン遺伝子のうち不和合性に関与する候補遺伝子について、不和合性の組み合わせの麹菌株両方で破壊する。この際に、研究代表者らが麹菌で確立したゲノム編集技術CRISPR/Cas9システムを利用することで、実用株における高効率の遺伝子破壊を行う。また研究代表者らは、異なる栄養要求性を付与した株どうしで融合させ、栄養要求性の相補による生育の有無を指標に不和合性を判定する方法を確立している。この方法を利用して、候補遺伝子の破壊により不和合性が解除されるかどうかを解析する。さらに、不和合性が未解析の株についても栄養要求性の相補による不和合性の解析を行い、和合性グループ分類を詳細に行う。そして、次世代シーケンサーによって全ゲノム配列を解読し、不和合な株間で配列多型な候補遺伝子の抽出の効率化を図る。 一方で、ゲノム編集技術を用いたランダム変異導入による不和合性制御遺伝子の探索を行う。CRISPR/Cas9システムによる高効率変異導入技術を利用して、全遺伝子を標的とした変異導入スクリーニングにより不和合性制御遺伝子の解明を試みる。現在までに、麹菌が有する約12,000個の全遺伝子配列に対し、CRISPR/Cas9システムの標的となる20塩基をデザインしている。このデザインに基づき、ゲノム編集を利用した麹菌の全遺伝子変異導入ライブラリーを作製して、不和合性の株の組み合わせのプロトプラスト融合と同時に導入させる。この際、CRISPR/Cas9システムによる高効率の変異導入が可能であるため、細胞融合体の両株に由来する核の同一の遺伝子に同時に変異導入することができる。そして、不和合性が解消され栄養要求性の相補によって生育した細胞融合体を単離する。得られた細胞融合体から変異が生じた遺伝子を特定することで、不和合性に関与する遺伝子の同定を試みる。
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Research Products
(15 results)