2018 Fiscal Year Annual Research Report
Molecular basis of transglutaminases action for hardness of epithelial tissues
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18H02134
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
人見 清隆 名古屋大学, 創薬科学研究科, 教授 (00202276)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | タンパク質架橋化 / トランスグルタミナーゼ / 上皮組織 / 表皮 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、体表などを覆ったり空間に面したりする組織である上皮組織の硬度化について、生体内で多彩な働きを担う「タンパク質架橋化酵素・トランスグルタミナーゼ(以下TGase)」がどのように貢献するのか、あるいは異常状態をもたらすのか、という点を中心にいくつかの動物・細胞のシステムを用いて明らかにしようとするものである。TGaseは、基質の特定のグルタミン残基とリジン残基との間に、カルシウムイオン依存的に架橋を形成する反応を触媒する。 本研究課題で対象とする組織は、皮膚表皮、肝臓および腎臓を中心とした動物組織である。細胞内で、硬度化を構築するのに必要なTGaseで架橋されるタンパク質群を明らかにするために、次のようなアプローチをした。我々はTGase群に特異的に反応する基質ペプチドを有しているが、これはグルタミン残基側の基質として、活性検出や基質探索に有用であるため、本研究課題でも多く活用した。平成30年度は、表皮形成を模倣できるヒト初代培養細胞株を用いて、活性の変動パターンを明らかにし、TG1とTG3が同時に発現して、後者が前者よりも遅く発現してくることを示した。あわせて、表皮細胞での基質探索を試みた。また、より探索の正確性を増すために、ネガティブコントロールとしての、TG1またはTG3を遺伝子欠損させた表皮細胞株の作製も進めている。また、腎臓と肝臓においては、正常状態の腎臓での基質探索を完了した。これをもとに、線維症の進行に伴う基質(とその産物)の変動を追跡できる基盤が完了した。また、この線維症進行に伴い細胞死や炎症に向かって進んだ場合のTGaseの関与を細胞株を用いて検討した。一方、モデル生物としてのメダカについてはTGase群の欠損した個体を有しており、このうち表皮のTGaseに相当する類似遺伝子変異体を用いて、硬度化との関わりを調べるための予備的な観察行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々が有する高反応性基質ペプチドを活用して、上皮組織での硬度化の対象として、昨年度は表皮、腎臓、肝臓を対象とし、正常な段階での表皮並びに腎臓での基質探索を行った。表皮については、初代培養で表皮形成を再現できるシステムを活用し、TG1およびTG3の活性が表皮分化のどの段階で出現するのかを明確にするとともに、TG1, TG3をsiRNAで阻害した場合の表皮角化形成への影響をこれまでの形態観察に加えて(論文業績 FEBS J. 2019)、角化した表層タンパク複合体 (cornified envelop) についても調べた。すでに行っていた条件をより詳細に検討し、TG1が発現しない表皮細胞は、TG3の発現抑制に比べてより重篤な影響が表れることを見出した。これはノックアウトマウスやヒト疾患での重篤さと相関する。また、初代表皮培養細胞での基質探索を標識基質ペプチドと質量分析を用いて行った。 腎臓については組織自体を硬度化する線維症に伴う基質候補を明らかにすることを最終目的に、初年度は正常な状態での基質探索を行った(ABB 2018)。さらに線維化を伴う硬度化を促進する過程では、上皮細胞においては、細胞外マトリクスタンパク質を細胞外に分泌する線維芽細胞へと変換(EMT)が生じる。硬度化に結び付くこの現象中でのTGase反応が関与する可能性を見出しており、どのような変化がこの現象に関係するのか興味が持たれる。 モデル生物としてのメダカについては、表皮細胞に異常をきたした個体を中心に、塩濃度の高い高浸透圧環境の中は稚魚の生存率が下がることを見出した(BBB 2018)。これは浸透圧など外液環境を鋭敏に感じるシステムの可能性があり、今後硬度化を促進する分子の探索系に発展させられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も、表皮・腎臓・肝臓の上皮組織に相当する領域を対象に、タンパク質架橋化反応が硬度化に及ぼす影響を研究する。これまで標識して用いてきた高反応性基質ペプチドの活用に加え、各組織由来の細胞株を用いて、酵素が欠損された細胞株を樹立して比較する、というアプローチも行う。酵素遺伝子の欠損方法はゲノム編集法を細胞レベルで用いて行い、また逆に誘導的に酵素を発現する細胞株の確立にも挑戦したい。 すでにこれまでsiRNAでの結果を得ているが、表皮細胞においてTG1(and/or)TG3を自在に欠損させて、立体培養系において表皮の硬度化にどのような影響を与えるかを解析したい。これはまた、基質探索を行うにあたって、これら欠損株をネガティブコントロールとすることで、より正確な基質群の同定や、TG1・TG3の役割分担を明らかにできる。 腎臓および肝臓については細胞株での解析を通じて、架橋基質の候補がすでに得られているので、実際にin vivo, in vitroにおいて硬度化に影響するのかどうかを、架橋産物を再現作製して、これを細胞に与えた際の効果や細胞内での挙動を解析する。また由来する細胞株を用いて、EMTに対するタンパク質架橋化酵素の関与を調べる。 モデル生物としてのメダカについては、表皮に存在するTGaseの欠損体を用いて、表皮の回復・硬度化を復帰させる薬剤の探索に向け、最も感度良く野生型と差のでる条件を探す。また、複数種のタンパク質架橋化酵素群の欠損変異体を得ているのでこれらを掛け合わせる(二重変異体)ことも試みる。 以上のアプローチにより、表皮・腎臓・肝臓で共通する硬度化に関わる因子、これが反応で修飾される産物、産物が細胞内外で与える挙動についてより情報を収集したい。
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Research Products
(21 results)