2018 Fiscal Year Annual Research Report
環境の時刻変動への適応を可能にする植物の時計転写ネットワークの包括的な解析
Project/Area Number |
18H02136
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中道 範人 名古屋大学, 理学研究科(WPI), 特任准教授 (90513440)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 植物 / 概日時計 / 低分子化合物 / 転写制御ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
概日時計は生命に備わった約1日周期の時間を創成するシステムであり, 時刻によって変化する地球環境に適応するために必須である. 不都合な状況から逃避することのできない植物の時計の環境応答能は特に優れている. 近年の研究により, 植物時計に関わる分子機構(コアサーキット)は明らかになりつつある. しかし, 環境変動へ柔軟に対応するための時計転写ネットワークの性質の包括的理解は不十分である. 本研究では, 我々が開拓してきたオミックス生物学の手法によって植物型時計の遺伝子発現ネットワークの全貌の分子基盤を解明する. さらに独自に見いだしている時計の安定性を脆弱化する化合物群の作用機序を明らかにし, 環境変動へ柔軟に対応するための時計転写ネットワークの包括的な理解を目指す. 本年度は, これまでに我々が見出していたシロイヌナズナの概日時計を長周期化する化合物PHA767491の作用機序を明らかにすることができた(PNAS 2019, in press). PHA767491はゲノムの13遺伝子座にコードされる非常に遺伝的重複性の高いシロイヌナズナのカゼインキナーゼ1 (CK1)の活性を阻害していた. またCK1は従来からその存在が示唆されていた時計転写因子TOC1とPRR5の分解の契機となるリン酸化を触媒しており, 実際にPHA767491の処理は植物体内のTOC1とPRR5の高蓄積を導いた. 低分子化合物の発見を契機に, 遺伝的重複性の非常に高いCK1の時計に関連した機能を見出すことができた. 時計転写ネットワークの普遍性と多様性を考察するために, いくつかの植物種での網羅的遺伝子データを比較解析し, それを報告した (Scientific reports, 2019).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
外環境や内部エネルギー状態に対して極めて頑強であるはずの時計周期を延長する低分子化合物を見出し, さらにこの化合物の作用機序を探ることで, 研究計画全体の目標の1つであった新たな時計関連因子(シロイヌナズナのCK1ファミリー)の発見を初年度に達成することができた. 並行して進めている時計周期変更能のある複数の低分子化合物の作用機序の解明へ向けた研究も順調に推進している. 低分子化合物の発見を契機とする研究は, これまで未知であった因子の発見に至るケースが実証できたため, さらなる化合物スクリーニングの実施も進めている. シロイヌナズナの時計転写因子の標的遺伝子をin vivoで探るChIPseqは, ある転写因子について予備的なデータを得ており, その知見をもとに新たな時計出力制御の可能性を見出している. 以上の研究により, 時計システムに関わる分子基盤の理解が進んでおり, この分子基盤の理解を踏まえて時計の環境に対する頑強性や可塑性の要因となるシステム動態を把握する準備が整いつつある 研究実施当初は, 予定していなかったが, 時計システムの維管束植物での普遍性と多様性を考察するために, シロイヌナズナの時計転写ネットワークで重要な働きをするPRR5に着目し, このPRR5の制御ネットワークが他の植物でも保存されているかを検討した. シロイヌナズナPRR5の標的遺伝子群は明け方から午前中に発現するが, PRR5標的遺伝子群のイネとポプラにおける相同遺伝子群の多くも同様の時刻に発現する傾向があった. この結果はPRR5の転写制御ネットワークが維管束植物全体で保存されていることを示唆していた. したがってシロイヌナズナの時計システムの分子基盤の理解は他の植物種にも適応できると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
新たに発見されたシロイヌナズナの時計関連タンパクCK1ファミリーのさらなる機能解析を進める. シロイヌナズナには少なくとも13遺伝子座のCK1が存在し, この13の遺伝子座のRNA干渉による一括的ノックダウンあるいは阻害剤によるCK1タンパクのファミリーの機能不全が時計周期を延長することを明らかにしたが, 13遺伝子座個々の遺伝子と時計との関連はわかっていない. そこで多重変異を含めた変異体を作成し, 個々のCK1遺伝子座の時計への関わりを決定する. また我々の有する時計機能を撹乱する低分子化合物群の標的同定および作用機序の解明を狙う. また18年度の研究から, 低分子化合物を処理した後の遺伝子発現変化を探ることは, 化合物の作用機序の解明への大きな手がかりとなることも分かった. したがって化合物の標的同定へ向けたプローブ化が, 化学合成的・生物活性的に困難である場合は, 上記の遺伝子発現プロファイリングを適宜に使っていきたい. 予備的であった時計転写因子のChIPseqの解析を進めることで, この転写因子がin vivoで物理的に近接する遺伝子座を決定をする. またこの転写因子をコードする遺伝子の変異体の網羅的遺伝子発現解析を行い, 転写因子の影響化にある遺伝子座を決定する. 上記の2つのカテゴリーに共に含まれる遺伝子群をこの転写因子の直接的な標的遺伝子として解釈し, その制御ネットワークの全貌を明らかにする. これまでに進めてきた複数の時計転写因子のネットワークと, この転写因子支配のネットワークを比較することで, 時計システム全体の転写制御ネットワークの理解にも迫りたい.
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Research Products
(7 results)