2019 Fiscal Year Annual Research Report
コケ内在性ジベレリン起源物質の生理活性制御機構の解明
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18H02142
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中嶋 正敏 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (50237278)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川出 洋 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20291916)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 分化誘導物質 / コケ植物 / 生理活性物質 / ジテルペノイド / ジベレリン |
Outline of Annual Research Achievements |
研究者らはヒメツリガネゴケ原糸体の分化を促すコケ内性物質の化学構造を明らかにして昨年度において植物系専門誌に情報を公表した(Mol Plant, 2018)。この物質が分化の過程の進行を促進する活性を持つこと自体は確実であるものの、この過程を制御する活性本体であると断定するには証拠がすべて揃ったと言えず、時期的に尚早であると考えている。そのため、この物質が活性本体であることを本研究において確定させたい。そのため、アプローチ(A1)では本物質の生合成に直接関わる酵素をコードしている遺伝子の同定を検討している。分化に影響する生育条件と注目する遺伝子の発現状況から絞り込まれた幾つかの分子種の活性検出が根幹となっている。また、アプローチ(A2)ではこの物質の信号受容機構を解明することにより、この物質が活性本体であるならばよいリガンドとして機能すると期待され、その性質の精査を通じてアプローチ(A1)と同じ目的を達成しようと試みている。さらに、本年度からアプローチ(A3)として、上記酵母発現系が奏功しない場合も十分に考えられるため、膠着の事態を想定して、植物での一過的発現系も開始して酵素活性の検出を進めることを開始した。もう一つ別の研究内容としてアプローチ(B)では、解析の対象としているコケ植物では植物ホルモン・ジベレリンを生合成しないことから、言わば「原始ジベレリン」とでも表現すべき当該物質をなぜ分化過程の制御に用いているのか、理由の解明を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
構造を明らかにした当該物質の生合成酵素は未同定な状況が続いている。アプローチ(A1)では当該酵素をコードする可能性がある遺伝子の破壊株を取得した上で、LC-MS/MSを用いた当該物質生産能を把握している。加えて、分化過程の進行異常など形質確認を行いながら、ent-カウレン酸の投与応答異常などが生じているか試験する体制を整えている。アプローチ(A2)では、化合物ライブラリーの投与に伴い分化応答に変化をもたらすものに関して、その構造ー活性相関研究を展開しているが、比較的単純な構造物のため構造展開にも制限がありプローブ化の難航が予想される結果を得た。そのため、最終年度に向けて本アプローチは縮小することとし、他に人的勢力を振り分けることを決めた。アプローチ(A3)については、目下その準備を急ぐ状況にある。アプローチ(B)では、コケ内生物質を対象に、破砕・抽出を経て荒分けして得た画分のうちから、生育阻害活性が安定して認めるか検討を継続した。
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Strategy for Future Research Activity |
アプローチ(A1)では、構造的類似性あるいは系統樹解析から可能性の高い分子種を優先して解析してきたが奏功が見られない。そこで、従来よりも候補の枠を拡げて検討することを予定している。加えて、破壊株の作出以外に試験管内での反応試験系も拡充してより直接的な証拠が得られるかについても種々の検討を始めた。アプローチ(A2)の規模縮小に代わり新たに開始するアプローチ(A3)では、着目遺伝子に関する植物内一過的発現系を構築した上で、基質であるent-カウレン酸の同時投与に伴う当該生理活性物質内生量の上昇が認められるか、LC-MS/MSを用いて検出を試みる。アプローチ(B)では、生育阻害活性物質の安定な蓄積が確認され次第、蓄積物の構造に関する情報取得を狙いたい。
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